連立与党の公明党。自民党案の「6議席増」に反旗を翻した

政治家にとっては一大事。アメリカ中間選挙を前に、すでに選挙区割という前哨戦がゴング

「一票の格差」是正に向けた参議院選挙制度改革の議論が進んでいる今国会。

自民党は「鳥取・島根」、「徳島・高知」の合区解消を、憲法を改正して実現しようと試みましたが、国民投票などを伴う改憲のハードルは高く、公明党の理解も得られなかったためその方針は撤回。現在自民党は合区で立候補できなくなる候補者の救済措置として、比例代表で取り入れられている非拘束名簿式を、上位2名に限って拘束名簿式を取り入れる案を主張しています。また、1票の格差是正のため、選挙区の定数を2増やすことも案に含まれており、合計で6議席増となることが批判を受けています。

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これに対して連立与党である公明党は、参議院の定数を現状のままとした上で、現行の比例代表と選挙区を廃止し、全国を11ブロックに分ける大選挙区制を導入する改正案の提出を検討しています。さらに、これに日本維新の会が同調する発言をしています。今回は公明党が提案する参議院選挙制度の内容や、メリット・デメリットについて考えます。

なお、公明党が独自案を提出したとしても成立する見込みはなく、最終的には自民党案を受け入れる方向だとされていますが、「(自民党の案は)抜本改革案になっていない」(公明党 北側一雄政治改革本部長)と批判し、党の姿勢をアピールする狙いがあるとされています。

大選挙区制とは何か

現在の衆院選では、「1つの選挙区から1人の当選者を選ぶ」小選挙区制が使われています。これに対して今回公明党が提案する「大選挙区制」は1つの選挙区から複数の当選者を選ぶ制度のことを言います。

現状の参議院の選挙区では東京都選挙区では改選数が6となっている一方で、32の県が1人区となっており、小選挙区制と大選挙区制が混在している状態といえます。

なお、「小選挙区制は当選者1人」「大選挙区制は当選者が複数名」ですが、かつて衆院選で取り入れられた「中選挙区制」は日本独自の呼称です。1つの選挙区から当選者を2名から6名程度選ぶので、一般的な大選挙区より少し規模が小さいため「中選挙区制」と呼ばれていましたが、欧米の定義では大選挙区制と呼ばれます。

大選挙区制のメリットは?

大選挙区制では死票(落選した候補者に投じられた票)が少なくなります

小選挙区制では当選者が1名であるため、得票率が「A候補は49%、B候補は51%」となるとA候補に入れられた49%、約半分の票が無駄になり、49%の有権者の民意が反映されなくなってしまいます。一方で大選挙区制の場合は複数の候補者が当選するため、少数派の意見が反映されやすく、より有権者の声が届きやすい政治が実現される可能性が開かれます。

特に現在問題となっている一票の格差の解消という意味では、非常にわかりやすい解決策になります。
また、大きな政党では1つの選挙区から複数の候補者を出すことになりますので、同じ政党の違う候補者同士で議論を闘わせる場面が見られるようになるのも特徴です。同じ政党といえども政治家個々人によって少しずつ意見が異なるのは当然のことですが、小選挙区制度だとそれが見えにくくなってしまいがちです。活発な議論を呼び起こすことが期待できます。

また、小選挙区制のように狭い地域から国会議員が選出されると、政治家は自分の選挙区となっている特定の地域の利益になる政策について考えざるを得ない状況が生まれてしまうことがあります。全国を11に分けた広い選挙区ならば、特定の地域にこだわることなく、憲法で定められた「全体の奉仕者」として広い視野でしがらみなく政治を考えられるようになることもメリットとしてあげられます。

大選挙区制のデメリットは?

一方で大選挙区制によって小さな党が当選しやすくなると、政権が安定しにくくなるというデメリットがあります。小党乱立による政権交代が頻発すると、大きな政治課題に取り組むことが難しくなりがちです。

また、選挙区が広いとなるとその分、選挙運動のために回る地域が広くなるのは当然のことです。広い地域で活動するとなれば選挙にお金がかかるようになり、ある程度お金を準備できる候補者でなければ選挙が闘えない、という問題点もあります。

さらに、同じ政党の候補者同士で争うことによって、政党内での派閥政治が強化されることに繋がります。実際に中選挙区制時代に自民党では派閥の存在感が大きく、党内で活発な議論が行われていましたが、これが自民党の派閥政治を生み出したと批判されました。

公明党の思惑と今後の展開は?

全国的な組織である創価学会を支持母体に持ち、支持率1位になることはないものの、安定して全国に一定の割合で支持者がいる公明党としては、大選挙区制の導入によって議席数を大幅に増やすことが見込まれます。同調している維新の会や共産党などの中規模政党は導入によるメリットがありますが、逆に第1党を目指す党にとっては議席数が削がれてゆく結果となりますので、自民党が大選挙区制の導入に簡単にOKするとは考えにくい状況です。

いずれにしても、選挙制度を、選ばれる当事者である政治家が国会で決定せざるを得ない以上、それぞれの立場からの綱引きが続くものと考えられます。どのような議論の末、どのように着地するのか。今後の論戦に注目が集まります。

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