父の故郷 半生、におい感じた「久賀島の集落」ゆかり 五輪真弓さん

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産登録が決まった。2001年に「長崎の教会群」の世界遺産登録を目指す民間運動が始まってから、長い時間をかけて「夢」が現実となった。構成資産がある地元の喜びもひとしおだ。
 大ヒット曲「恋人よ」で知られ、情感豊かな歌声で人々を魅了するシンガー・ソングライター、五輪(いつわ)真弓さんは構成資産の一つ、「久賀島の集落」(五島市)ゆかりの人物。「五輪」の姓は久賀島の五輪(ごりん)地区に由来している。五輪さんに久賀島への思いを語ってもらうとともに、古里が世界遺産になったことを喜ぶ地元の人たちを紹介する。

五輪真弓さん(ソニーミュージック提供)

 -「久賀島の集落」が潜伏キリシタン遺産として世界文化遺産に登録されました。
 私は東京の生まれで、久賀島に住んだことはありません。ただ、島は父(政雄さん)の生まれ育った場所です。父は晩年、ずっとロザリオを身に着けていました。世界遺産になったことをきっと喜んでいると思います。私もこれまで4回ほど訪れましたが、登録によって父の故郷が大きな管理下に置かれ、次世代まで守られていくことにとても安心しています。
 -政雄さんは、島では漁師をしながら、教会でオルガンやバイオリンを弾いていたと聞きましたが。
 威厳があり、いつも私のことを考えてくれた優しい父でした。手先が器用で、漁に使う網を作っていたせいか、セーターを編むのがものすごく上手でした。いろいろなことに興味を持っていて、音楽も大好きでしたね。誰に習うともなく、楽器があればすぐ弾き始める感じで、ミサでも演奏していました。
 -久賀島を最初に訪れたのはいつですか。
 1984年に結婚して、翌年に子どもが産まれた時です。その時、夫から「結婚しても五輪の性を名乗って仕事をするのだから、ご先祖にあいさつをしておいたら」と言われたのがきっかけです。カトリック墓地で墓参りし、教会を訪れました。「あー、ここが父がいたところか」と感慨深いものがありました。
 -「五輪」の名前に感じるものはありますか?
 小さいころは珍しすぎてあまり好きではなかったけど、今は強烈な引力があり、歴史や信念のある名だと思ってます。
 -デビュー40周年の2013年、番組の収録で久賀島を訪れ、代表曲「恋人よ」や「時の流れに~鳥になれ」を歌われました。
 その時、地元の人で父に似た方に出会い、懐かしい感じがしました。その方は父のことを知っていて「いい男だった」とおっしゃってくださった。父の半生やにおいを感じましたね。
 -「時の流れに」は85年に久賀島を初訪問した後に作られてますね。
 そうです。子どもが産まれ、絶対的な愛が存在することに感動しました。そこに先祖がいた久賀島を訪ねてみて、過去から現在、未来が一直線につながった気がしました。それをそのまま表現した歌です。
 -久賀島でまた歌いたいですか?
 そうですね。要請があれば是非。世界遺産になった久賀島にぴったりな歌だと思います。

 【略歴】いつわ・まゆみ 1951年、東京都生まれ。72年、シングル「少女」と米国で制作したアルバム「五輪真弓/少女」でデビュー。80年、シングル「恋人よ」が大ヒット。日本レコード大賞金賞受賞、NHK紅白歌合戦に初出場。インドネシアで大ヒットした「心の友」が同国で「第二の国歌」と親しまれるなど海外での評価も高い。2017年はデビュー45周年コンサートツアーで全国19公演を行うなど、息の長い活動を続けている。

「久賀島の集落」の五輪地区=五島市蕨町

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