【現場を歩く】〈新日鉄住金エンジの免震装置「NS-SSB」〉米国で実大動的実験実施

 【カリフォルニア州・サンディエゴ発=村上 倫】新日鉄住金エンジニアリング(社長・藤原真一氏)が展開する球面すべり支承「NS―SSB」は振り子の原理と鉄の技術を利用した鉄の免震装置。本装置だけで免震装置に必要な全機能を有し装置がコンパクトであるほか建物重量の変化に免震性能が影響しないなど従来のゴム免震にはない高いメリットを有する。今年5月から6月にかけて米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)で球面すべり支承「NS―SSB」の実大動的試験を実施。この実験結果などを踏まえ海外展開に乗り出す。実験の様子を取材した。

 「NS―SSB」は厚鋼板を球面加工した上部・下部コンケイブプレートにステンレス製のすべり板を一体化させ、その間にスライダーを配置。地震時にはスライダーが上部・下部のコンケイブプレート間で振り子のように移動し地震エネルギーを吸収しつつ建物を元の位置に回復させる。14年に販売開始し、17年には従来以上の免震効果を発揮する低摩擦タイプを開発。また、今年に入ってからはより変形量が大きい長周期地震動への対応として限界変形量を拡大するなど適用範囲を拡大した。国内では着実に納入実績を積み重ねておりこれまで物流施設やマンション、病院などの施設で累計19件、出荷台数1019台の実績を有する。

 日本国内では実大試験を行わずに縮小試験だけでも免震装置の販売は可能となる。建築基準法(大臣認定)では静的試験(ゆっくりとした載荷試験)で実大1方向試験が求められるが理論的な検証により縮小試験でも代替できるほか、動的試験(地震速度による載荷試験)ではそもそも縮小1方向試験しか求められていない。しかし、海外で免震装置を販売するには実大試験体を用いた動的な加力試験が必須となる。北米や南米、東南アジアなどでは米国基準(ASCE)が用いられており、実大1方向試験が必要となるほか欧州はさらに厳しく動的試験では実大2方向試験が求められる。日本国内には実大動的試験が可能な設備は存在しないことから、同社では台湾などプロジェクトの具体化が見えている米国基準の適用国向けの展開を念頭に今回UCSDでの試験を実施した。台湾の台湾国立地震研究所でも試験を実施する予定となっている。

 本試験施設の建設はカリフォルニアに甚大な被害をもたらした89年のロマ・プリータ地震、94年のノースリッジ地震が契機となっている。未曾有の大地震で多くの橋が壊れたがその改良には免制震装置が重要とされ、その適用に実際の地震力を多方向から試験可能な実大試験機の必要性が確認されたことで建てられ99年に稼働した。本施設は鉛直方向の圧縮荷重5340トン、水平荷重は890トン、445トンと現時点で世界最大の試験設備を備える。今回の試験期間では国内認証試験結果との整合性確認試験、ASCE対応試験、2方向載荷試験の3種類の試験を実施。UCSDでは唯一実大2方向試験まで実施することができる。同社の海外展開はASCEの適用国を念頭に置いてはいるものの、実現象に可能な限り忠実な試験を行うとともに今後は日本でも2方向の試験が義務付けられる可能性もあるため、先駆けて2方向試験を行った。

 海外での拡販目指し厳しい基準に対応

 装置は油圧式でアキュムレータ(蓄圧器)に液圧を蓄えてエネルギーを放出する。約1万9千リットルの油と34MPaの窒素ガスによる加圧を要し、このエネルギーによって試験台に取り付けられた4本の水平アクチュエータや垂直方向のアクチュエータなどを動かす。安全上の理由でポンプと100本のアキュムレータは試験施設と分離されている。1度の試験で8メートル分動かすとエネルギーを蓄えるために数十分の時間を要するほか、「NS―SSB」の場合は摩擦熱を冷ます時間も数十分必要となる。取材当日の試験はスライダー径40ミリの「NS―SSB」を用いて2方向載荷試験を実施。円周回転の試験と阪神・淡路大震災の地震波(西明石)を用いた試験を行った。海外では低摩擦タイプは使われにくいという判断から摩擦係数は0・043が中心で800~900トンの軸力をかけて実施した。

 試験時間は数秒ながらその挙動はリアル。特に地震波を用いた試験の軌跡は垂直方向、水平方向に揺さぶられ実際の地震に近いと素人目でも感じた。相当な負荷が掛かっても「NS―SSB」のステンレス製の滑り板は非常に綺麗だったことが印象的だった。当日得られた生データとしては所期の性能を発揮しているようだが、今後は東京工業大学の協力を得ながら数カ月以上をかけて今回のデータを精密解析する。国内販売で製品の信頼性向上のツールとして活用するほか海外展開につなげていく。試験結果は今後台湾に「NS―SSB」を投入するための試験データにもしていく方針。こうした実証主義的なアプローチは最も揺るぎなくわかりやすい。わかりやすいことが安全・安心を最大限に担保するということを実感した試験だった。

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