浸水区域従業員を職場で受け入れが必要 東京都、水害広域避難は人数把握し具体策

中央区にある亀島川水門。都内には高潮対策としてこのような水門が多数ある

江東5区で178万人

東京では荒川沿いの東部を中心に洪水のリスクが高いとされている。東京都が3月30日に策定した「想定し得る最大規模の高潮による浸水想定区域図」では、東部の荒川沿いの低地を中心に東京23区の3分の1にあたる約212km2が浸水すると想定している。東京、特に江東5区と呼ばれる江東区、足立区、江戸川区、葛飾区、墨田区を中心に行政区域を越えた広域避難について取材した。

江東5区では1947年のカスリーン台風級の水害が発生した場合、約255万人の人口のうち約178万人が域外避難を行わねばならない可能性がある。2016年から今年にかけて内閣府を中心に学識経験者や東京都も参加し、ワーキンググループ(WG)を開催。主に三大都市圏のゼロメートル地帯での大規模洪水時の広域避難に関して話し合われた。対象地域や災害を設定し、家屋流失や全居室浸水などの被害を受けた域外避難者を算出。橋など通行が遅くなるボトルネック箇所も考慮し、避難にかかる時間と洪水予測から避難開始のタイミングを設定するといった広域避難の考え方を報告書として3月にまとめた。

この後に首都圏の広域避難の検討会として「首都圏における大規模水害広域避難検討会」が内閣府と東京都を座長として設置。6月1日に第1回会合が開催され、広域避難場所の確保と避難手段確保・誘導についてそれぞれWGを設置し検討することとなった。

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企業は危機意識持ち対策を

「江東5区のみでなく、東京全体でどれだけの人の広域避難が必要なのか、まずこの把握が大事」と語るのは東京都総務局総合防災部計画調整担当課長の濱中哲彦氏(濱の字は右のうかんむりの下に眉で目の部分が貝)。そもそも避難対策を立てるのは区市町村だが、洪水などで広域避難が予測されることから都では2014年の地域防災計画風水害編で、区市町村間や他県との広域自治体としての都の調整機能を盛り込んでいる。この調整機能を果たすためにも、まずは東京全体で広域避難が必要な人数の規模感が重要であることを濱中氏は指摘する。もし広域避難を実行する際の移動手段について交通事業者に依頼するにも、近隣県に避難先を確保してもらうにも、域外避難者の数がわからないと調整が難しいからだ。

インパクトが大きい3月に発表された都策定の高潮による浸水想定も含め、内閣府との検討会ではこの域外避難者の数を様々な被害予測を基に精緻に検証していくことが大事になってくる。広域避難の課題は避難場所と移動手段。避難場所については近隣県に公共施設の提供を依頼すること、移動手段については鉄道事業者など交通機関や警察との調整が必要となる。「近隣県に避難先を確保するにも、移動手段の検討にも、とにかく避難者数の規模感を示す必要を実感している」と濱中氏は語る。

広域避難の際、公共の施設に頼らず自主避難先を確保しておくことが望ましい。その必要性の周知も大事だが、どのくらいの人が確保できているかを知るのは困難である。避難者の数に加え、細かい住民の備えや発災後の避難行動を把握するといった情報整備も見落とせない点だ。

民間企業がとるべき姿勢について濱中氏は「水害に対する危機意識を持ってほしい」と呼びかけ。もし浸水想定区域に企業が所在する場合は休業措置も含めたBCP(事業継続計画)を作ることや、事業所の安全な場所への移転も求めている。濱中氏はさらに、「浸水想定区域に住んでいる従業員を把握し、もし従業員が広域避難の対象になった際、職場が安全な地域にある場合は自主避難先として受け入れることを認めてほしい」としている。近隣県も含めた公的施設を利用する避難者を減らす取り組みが必要なためで、ほかの災害時の帰宅困難者対策にもつながる備蓄などの取り組みによる共助が期待される。

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複数自治体の洪水広域避難計画策定手順
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http://www.risktaisaku.com/articles/-/6407

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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