GLで消耗した両チーム 互いに慎重な試合運びに
両チームとも非常に難しいゲームマネジメントを強いられていた。
スウェーデンの場合、グループリーグ第2戦にドイツ戦が組まれていたため、大会の序盤に体力的なピークを作る必要があった。
一方のスイスはグループリーグ初戦が大一番。相手は優勝候補のブラジルだ。コテンパンに叩きのめされ、心に深いダメージを負う危険度が伴っていた。
この関門はクリアできた。スウェーデンはドイツに敗れはしたものの、最後の最後まで抵抗した。スイスもブラジルに1-1で引き分け、世界中を驚かせている。それでも、体力的なピークを決勝トーナメントに持っていくような余裕はなく、傑出したスターもいないため、大事に闘わざるをえなかったようだ。しかも、負ければ終わりの決勝トーナメントである。リスクは負わず、ともに様子をうかがってばかりいた。
最終ラインの裏は狙わない。DFとMFのライン間に進入しない。サイドチェンジも数えるほどで、攻撃のリズムは単調だ。退屈な内容に、前半の半ばで観客席からブーイングが聞こえてくる。「もっと攻めろ」「日本の勇気を見習え」とでも促しているのだろうか。しかし、敗北は大会からの撤退を意味するため、両チームが慎重策を選んだのは当然だ。延長戦やPK戦までを想定し、前半は極力抑えていたと考えられる。後半に入れば、多少はギアも上がると......。
膠着状態が続くなか フォルスベリが均衡を破る
ピッチ上は相変わらず静かだ。前半に比べれば若干スピードアップしているが、スリリングな攻防とは無縁の世界だ。決して撃ち合わず、ジャブを出してもすぐにカードを固め、前にはあまり出てこない。いや、前に行けないのだ。ともに4試合目。ともに中5日。ワールドカップのプレッシャーは並大抵のレベルではない。グループリーグのダメージは大きく、疲労の色は隠せない。ボールコントロール、フィードでもイージーミスが増えはじめ、せっかくのチャンスをふいにしたり、ピンチになりかけたり、集中力の維持が難しい展開が続いていく。まだ後半も半ばだというのに、早くもPK戦の気配が漂いはじめた。
そのとき、試合が動いた。スウェーデンのDFリンデロフが右サイドをドリブルで持ち上がり、クラーソン、フォルスベリ、トイヴォネンとつないで左サイドへ。スイスDFは左右に揺さぶられ、下がりすぎてもいた。中盤のジャカとベーラミが吸収されそうになっている。トイヴォネンのリターンを受けたフォルスベリの前にはシュートコースがあった。右足を振る。スイスのDFアカンジの踵に当たったボールは、そのままゴールに吸い込まれていった。
ビハインドを背負ったスイスが反撃に出る。だが、クロスの精度が低い。焦りから同じようなミスを繰り返す。アディショナルタイム、右サイドでボールを奪われたとき、ベーラミとロドリゲスには取り返す気力さえ残っていなかった。初戦で一大センセーションを巻き起こしたスイスが、あっけなく散った。
[スコア]
スウェーデン代表 1-0 スイス代表
[得点者]
スウェーデン代表:フォルスベリ(66)
文/粕谷 秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。
theWORLD217号 2018年7月4日配信の記事より転載