「価値と共存を地元は考えて」 稲葉信子・筑波大大学院教授

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は「人類の宝」として何が求められるのか。世界遺産に詳しい稲葉信子筑波大大学院教授に聞いた。

 潜伏キリシタン遺産の価値は、今はもう残っていない「潜伏キリシタンの信仰」という歴史だ。それをどう後世に伝えていくか。長崎・天草はその先駆者になる。
 土地の記憶を伝える今の風景を維持していってほしい。建物を改修する際はできるだけ規模や形を踏襲したい。キリシタン墓地などはしっかりメンテナンスして残していく必要がある。
 潜伏キリシタン遺産の構成資産の多くは重要文化的景観に選定されているが、「凍結保存」を求めてはいない。文化財としての価値を損ねない程度の現状変更は許容される。どこまで変更が許されて、何が駄目なのか、行政と住民が日ごろから理解を深めておくことが重要だ。地元でその都度判断できるように、行政と住民をつなぐコーディネーター的な担当者が各自治体にほしい。
 潜伏キリシタン遺産は風景が歴史を象徴している。価値を理解してもらうには、まずは現地を訪れてもらうことが大事だ。五島の海沿いを船で行くと、岬ごとに白い教会が見えて、ここに潜伏キリシタンがいたのだと実感する。それは飛行機でぱっと行ったとしても理解できない。利便性を追うよりも、むしろ時間をかけて訪ね、簡単に行けないことを体感してもらうほうがいい。
 潜伏キリシタン遺産は今後、ユネスコのホームページや書籍で紹介される。世界と直接につながり、世界中の人が訪問を希望するだろうし、長崎・天草の知名度が大きく向上する。世界遺産は「持続可能な開発」のベストモデルとなって、人間社会の未来に貢献する役割がある。地元は常に世界遺産の価値と共存することを考えていってほしい。

 【略歴】いなば・のぶこ 1955年名古屋市生まれ。東京工大理工学研究科単位取得満期退学。文化庁文化財調査官、文化財保存修復研究国際センター政府派遣職員、東京文化財研究所職員を経て2008年から現職。文化審議会専門委員。専門は建築学

稲葉信子さん

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