かくれキリシタン・指導者たちの思い 長崎市下黒崎町の村上茂則さん(68) 「生きている間存続を」

 「先祖たちがやってきたことが間違いではなかったと世界に認められた。きっと登録を喜んでくれているはず」。長崎県長崎市下黒崎町のかくれキリシタン帳方(指導者)、村上茂則さん(68)は柔らかな笑みを浮かべた。
 56歳の時に父・茂さんが亡くなり、帳方を継いだ。それまで先祖代々受け継ぐオラショを唱えたことはなく、それから3年間、ほぼ毎晩、自宅近くの先祖の墓前で練習した。「最初は祈りじゃなくて、ただ読んでいるだけだった」。今は70種類以上あるオラショの大半を暗記し、葬儀やクリスマスといった行事ごとに使い分けている。
 黒崎地区には現在も23世帯約50人のかくれ信者が暮らす。「バスチャンの日繰り」という教会暦も伝承され、旧カトリックの祝祭日には畑仕事をしないなど約束事も守っている。
 信者の高齢化は進み、最近は洗礼を授かる子どもはほとんどいない。「このままだと(存続が)危ない」と不安を口にする。数年前には信仰を後世に残していくため、オラショを清書し、行事ごとの冊子にまとめた。「信仰が途絶えてもそんなに影響はないかもしれない。でも、せめて自分が生きている間は存続させていこうと」
 自宅近くの「枯松神社」は禁教期の宣教師といわれる「サンジュワン」を祭る全国的にも珍しい「キリシタン神社」だ。「枯松神社こそキリシタンの聖地。多くの住民が世界遺産登録を望んでいる」と追加登録を熱望している。

枯松神社の前で世界遺産登録を喜ぶ村上さん=長崎県長崎市下黒崎町

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