W杯も掲げるサステナビリティ戦略 Jリーグも着手

スポーツ界はなぜサステナビリティに取り組むべきか。7月3日、東京・東銀座で「スポーツとサステナビリティ」をテーマにしたセミナーが開催され、欧州サッカー連盟(UEFA)と協働して持続可能なスポーツリーグ運営を進めるWWF(世界自然保護基金)とJリーグ(公益社団法人日本サッカーリーグ)の担当者が登壇。世界の動向やJリーグがどうサステナビリティに取り組んでいるかが発表された。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

2014年W杯のサステナビリティ報告書

6月14日からロシアで開催されているサッカー・ワールドカップでもサステナビリティ戦略が掲げられており、FIFAはサステナビリティ報告書も発行している。今大会では、気候変動と労働、人種差別、アクセシビリティの4分野で約150のイニシアティブを実施。例えば、人種差別に関しては、大会史上初めて試合中に差別的な言動が起きた際に審判が試合を中断できるようになった。

そうした流れについて「FIFAやIOC(国際オリンピック委員会)はサステナビリティを必須事項だと考えている。その場限りの取り組みではなく、競技や大会運営を通して、ステークホルダーや社会に価値を還元し、存続をかけてサステナビリティに取り組んでいかなければならない危機感がある」とセミナーの主催者である一般社団法人 Sport For Smile の梶川三枝代表は話した。

WWF 渡辺室長

WWFはIOCやUEFAと協働し、カーボン・オフセットの導入や入札基準の改訂、調達方針の策定に携わる。欧州の取り組みは進んでおり、UEFAチャンピオンズリーグではチケット購入時に登録した観客の自宅からスタジアムまでの移動距離を測りCO2の排出量を算出し、総排出量をカーボン・オフセットしている。

WWFコミュニケーションズ&マーケティング室の渡辺友則室長は、「スポーツはユニフォームやグッズなどの製造業にはじまり飲食業、施設・設備の建設や管理、土地・水域の利用、観客の移動など様々な業界が関わる一大産業だ。スポーツ界がサステナビリティに取り組むことで環境や社会課題の解決が加速する」と語った。

スポーツの持つ影響力が社会を変える

Jリーグ 木下由美子 チェアマン特命 外交担当

今年で創設25周年を迎えるJリーグは「ホームタウン制度」を掲げ、地域社会に密着したクラブづくりを推進してきた。Jリーグの木下由美子 チェアマン特命 外交担当は「SDGsと関連付けるところまではまだ進んでいないが、Jクラブは年間を通して全国で健康増進プログラムの開催や教育、環境保全活動に取り組んできた」と説明。

実際に、FC東京は4月に開催されたホームゲームでカーボン・オフセットを実施した。鹿島アントラーズは医療施設の少ない鹿島市のスタジアムに併設するスポーツクリニックを住民に開放し、同チームドクターが診察してくれることが評判となっていると言う。

木下氏は「スポーツ界は、世界の様々な人や産業が関わるスポーツの影響力を社会課題の解決に向ける責任がある。サステナビリティに配慮した大会運営が求められる東京オリ・パラがJリーグにとって変化のきっかけになるだろう」と話した。

梶川代表は、5月にオランダ・アムステルダムで開催されたカンファレンス「サステナブル・イノベーション・イン・スポーツ2018」に参加した印象を振り返り、「世界のスポーツ界はサステナビリティに取り組むか取り組まないかではなく、『いかにやるか』を考える段階に入っている。日本のスポーツ界と乖離がある。これからスポーツ界では『未来のため』『子どもたちのため』と迂闊に言うのではなく、スポーツの社会的責任にどれだけ本気で取り組むかが試される」と語った。

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