銀行114行「2018年3月期 預証率調査」(単独決算ベース)

 マイナス金利の逆風に晒され、銀行が資金運用難に直面している。国内114行の資金運用状況を示す「預証率」が、2018年3月期に25.9%へ低下した。2013年3月期から6年連続で前年同期を下回り、調査を開始した2006年3月期以来、最低を記録した。
 一方、貸出や証券投資に運用されない余剰資金を示す「現金預け金」は、219兆2,804億800万円(前年同期比12.2%増)に積み上がり、マイナス金利で拍車がかかった銀行の資金運用難ぶりが鮮明になった。

  • ※本調査は、国内銀行114行を対象に2018年3月期単独決算の預証率を調査した。預証率は預金残高に対する有価証券残高の比率で、金融機関の資金運用状況を示す指標の一つ。預証率=有価証券÷(預金+譲渡性預金)で算出し、有価証券は貸借対照表の資産の部に計上される「国債」、「地方債」、「社債」、「株式」、「その他の証券」を合計した。「預金」と「譲渡性預金」は、貸借対照表の負債の部から抽出し、合計した。
  • ※2012年4月1日に住友信託銀行・中央三井信託銀行・中央三井アセット信託銀行の合併で発足した三井住友信託銀行は、過去データとの比較ができないため、調査対象に含まない。

2018年3月期の預証率25.9%、6年連続低下

 銀行114行の2018年3月期単独決算の預証率は25.9%で、6年連続で前年同期を下回った。
 これまで3月期決算の預証率は、リーマン・ショック直前の2008年に30.9%で、その後は上昇を続けた。特に、2012年は歴史的な円高で大手企業の設備投資意欲の減退や、急速な市場悪化などを要因に株式、社債の比率も低下。その結果、運用資金が大量に国債購入に流入し、預証率は42.4%にまで上昇した。
 しかし、2013年4月に日本銀行が「異次元金融緩和」を導入、銀行等から積極的に国債を買い入れ、その代金が金融機関の日銀当座預金に振り込まれた。さらに、2014年10月には長期国債の買い入れ拡大などの追加金融緩和を決定し、大手銀行を中心に国債の売却が進み、有価証券残高は減少を続けている。

銀行114行 預証率と有価証券残高推移

約8割の銀行で預証率低下

 個別の預証率は114行のうち、89行(構成比78.0%、前年同期86行)で前年同期を下回った。比率が低下したのは、百十四銀行9.2ポイント低下(34.6→25.4%)を筆頭に、北都銀行9.1ポイント低下(38.2→29.1%)、東北銀行8.9ポイント低下(33.8→24.9%)、北海道銀行8.4ポイント低下(21.8→13.4%)の順。一方、預証率が上昇したのは、あおぞら銀行(35.2→40.6%)、清水銀行(17.7→22.8%)など24行(構成比21.0%、前年同期27行)、同率が1行だった。

「国債」残高が75兆円に縮小、5年前の半減に

 銀行114行の2018年3月期の資産運用、投資目的で保有する「有価証券」残高は、209兆9,423億3,400万円(前年同期比0.8%減)で、3年連続で前年同期を下回った。
 「有価証券」残高の内訳では、「国債」が75兆2,905億4,300万円(前年同期比5.2%減、構成比35.8%)で、5年前の2013年3月期(160兆3,800億300万円)から半減した。
 こうした流れを背景に、「国債」残高は114行のうち、106行(構成比92.9%)と9割以上の銀行で前年同期を下回った。

「地方債」8.4%増、「株式」5.8%増

 この他の「有価証券」は、外国証券などの「その他の証券」が68兆9,698億6,600万円(前年同期比0.4%増、構成比32.8%)、「社債」26兆7,678億5,600万円(同1.1%減、同12.7%)、「株式」24兆2,703億5,100万円(同5.8%増、同11.5%)、「地方債」14兆6,437億1,800万円(同8.4%増、構成比6.9%)などで、国債残高が減る中でリスクの低い地方債の伸びが目立つ。

銀行114行 国債他の残高推移

資金運用難を反映、「現金預け金」が「有価証券」残高を上回る

 銀行114行の2018年3月期の「現金預け金」(日銀当座預金が中心で、通貨、手形などを含む)の総額は、219兆2,804億800万円(前年同期比12.2%増、前年同期195兆4,135億8,000万円)に達し、「有価証券」残高(209兆9,423億3,400万円)を上回った。
 「現金預け金」は114行のうち、78行(構成比68.4%)が前年同期を上回った。増加額が最も大きかったのは、三菱UFJ銀行の8兆7,041億3,600万円増。次いで、三井住友銀行の7兆3,777億100万円増、三菱UFJ信託銀行の1兆2,972億6,300万円増とメガバンクが上位に並んだ。増加額が1,000億円以上は24行(構成比21.0%、前年同期39行)で、前年同期より15行減少した。
 「現金預け金」は流動性・安全性は高い一方で、貸出や有価証券より利回りが低い。それでも「現金預け金」が積み上がったことは、銀行の収益力低下と「資金運用難」の深刻さを物語っている。

 銀行114行の2018年3月期決算の預証率は、6年連続で前年同期を下回った。これは貸出増加によるというより、主に銀行が国債売却を進めて有価証券残高が減少したことが大きな要因だ。
 東京商工リサーチが6月に発表した「銀行114行の預貸率」調査で、2018年3月期決算の預貸率は調査を開始以来、最低の65.5%を記録し、預金と貸出金の差の「預貸ギャップ」が過去最大の278兆円に拡大した。これを裏付けるように貸出金の増加以上に預金残高が伸び、資金運用できずに「現金預け金」が積み上がる構図が鮮明になっている。
 2018年3月期の「預証率」が調査開始以来、最低を記録したのは国債を売却する一方で、有力な運用先が見つからない銀行の資金運用難の深刻さを浮き彫りにしている。  預証率の低下は、一見すると貸出増加という政府目標に沿っているように見えるが、実情は銀行の運用資産全体のリバランス(配分調整)が進んでいないことを映し出している。

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