【ニュースの周辺】〈欧州も鉄鋼輸入制限措置発動〉米232条と違い鮮明 市場への影響最悪の事態、回避か

 欧州委員会は先週、輸入鋼材に対するセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の発動を決めた。鉄鋼国際市場に多大な影響が及びかねないと懸念されたEUのSGだが、米国の「通商拡大法232条」と異なる点が多く、想定された最悪の事態は回避できそうな雰囲気にある。欧米の違いをまとめた。

 世界鉄鋼協会によると、昨年の鉄鋼輸入(半製品含む)はEUが世界最大の4120万トン、米国はこれに次ぐ3540万トンで2位だった。鉄鋼内需はEUが1億5千万トン、米が9千万トンという巨大市場だけに、輸入鋼材も多い。

 ただトランプ政権の輸入規制ではスラブなど半製品を含むほぼ全ての鉄鋼が対象だが、EUは半製品を当初から対象としていない。EUのSGで実際に対象となるのは鋼材で3千万トン前後と見られる。

 欧米とも通商障壁を設けるのは同じだが、その中身は大分違う。米は鉄鋼輸入に一律で25%の追加関税を課し、約1300万トン分の鉄鋼輸入を減らすのが目的と明示している。「232条」の主旨である安全保障を理由に、米鉄鋼業の設備稼働率を高めるのが大義名分だ。

 一方、EUは伝統的な輸入量の平均を超えた場合のみ25%を課す関税割当制(タリフクオーター制)で、従来の輸入量から減らすのを目的とはしていない。あくまで米の「232条」であぶれた鋼材が欧州へ還流することを防ぐ狙いとしている。

 数量枠(クオーター制)の位置付けも、欧米では性格が異なる。EUはタリフクオーターとあるように、一定の数量を超えた際に追加関税を課すもので、裏返せば25%を払えば輸出は可能だ。

 米は韓国やブラジルのように、国別で除外を認めた国にそれぞれ「クオーター制」を設けている。しかしその数量枠を超えた輸出は「禁止」とし、米国での通関も認めない。WTOルール上、問題視されるような仕組みだ。

 日本からのEU向け鉄鋼輸出は昨年実績で25万トン、米向けは178万トン。EU向けは変圧器で使われる方向性電磁鋼板や特殊鋼といった希少性の高い鋼材ばかりで、米向けも現地で造れない鋼材や西海岸にメーカーがない半製品・スラブなど。措置発動後も影響は限定的と見込まれ、EUのSGでは発動対象となる品目次第で日本材はさほど影響しない可能性もある。

 何より、欧州が既存の輸入鋼材を締め出そうとせず、従来の輸入量は認めようとしている点でトルコやインド、イラン、CISや東南アジアといった国々の欧州向け輸出が急減する懸念は薄らいだ。欧州が3月下旬からSG調査を開始して以降、日本の関係者はEU側に世界の鉄鋼貿易へ混乱を生じさせないよう良識ある判断を求めてきたが、一定の成果は挙がったと言える。

 今後、EUと同様にSG調査を行ってきたトルコなど他国の決定にも「欧州の良識」が拡がるのか。SG乱発による「ダイバージョン」回避へ、EUの判断はいちるの望みを残した形だ。(黒澤 広之)

© 株式会社鉄鋼新聞社