【この人にこのテーマ】〈冨士ダイスの営業・技術開発戦略〉《西嶋守男社長》一貫生産体制生かして多品種・少量ニーズに対応 超硬耐摩耗工具分野の国内最大手

 冨士ダイス(本社・東京都大田区)は、超硬合金の耐摩耗工具・金型メーカー。設計から原材料調製、焼結、加工、検査までの一貫生産体制により、様々な製造工程においてユーザーの多品種少量ニーズに応えている。超硬耐摩耗工具分野で国内シェアトップを誇る同社の西嶋守男社長に、今後の営業展開・成長戦略、新製品・技術開発、海外戦略などについて聞いた。(後藤 隆博)

――まず御社の事業内容から教えていただきたい。

 「超硬合金製を中心とした工具・金型(耐摩耗工具)製造に特化したメーカーだ。ダイスやプラグ、溝付きロールなどの超硬製工具類、自動車部品・製缶用の超硬製金型類、素材やガイドレールなどのその他超硬製品の3分野で全売上高の4分の3を占める。残りの4分の1はセラミック製品やダイヤモンド研削砥石など超硬以外の製品」

 「当社の耐摩耗工具・金型は自動車部品、飲料缶、家電製品、光学機器など様々な製品の高精度金属加工に使用されている。取引社数は年間約3千社あり、顧客の業種も幅広い」

冨士ダイス・西嶋社長

――超硬工具のマーケット規模は。

 「17年度の国内超硬工具出荷額は3654億円で前期比10%増えている。そのうち、当社の主力マーケットである超硬耐摩耗工具の出荷額は390億円で同分野での当社のシェアは32~33%。少量多品種の高付加価値製品の販売を主体にしており、長年トップシェアを堅持している。足元は超硬製工具類の海外向け溝付きロールや混錬工具、冷間フォーミングロール、超硬製金型類では自動車部品生産用金型の需要が堅調だ」

――超硬耐摩耗工具の分野でトップシェアを維持する御社の強みはどこにあるか。

 「まずは、一貫生産体制により様々な多品種・少量生産のオーダーに対応できることが挙げられる。当社では受注・設計から原材料粉末の調粉、冶金(成形・焼結)、機械加工、製品検査までをすべて自社で行う。素材売りの割合が高い業界にあって当社はユーザーニーズに応じた完成品の販売が多く、他社に比べて平均単価も高い」

 「現在国内には、子会社も含めて生産拠点が7カ所、営業拠点が13カ所ある。この全国をカバーする直販ネットワーク網も当社の強みだ。生産拠点のうち、郡山、岡山、熊本の各製造所は合金を製造する工場(冶金工場)がある。岡山では、原材料粉末を調製する工程を持つ。秦野、名古屋、大阪、子会社の新和ダイスは製造工場。大型サイズの工具・金型は岡山、新和ダイスは小径ダイスを専門に行う。熊本では、自動車部品加工向けの複雑な形状の金型生産を集中的に行っている。光学レンズ金型などの高精度品は郡山で製造するなど、形状や製品特性によって各拠点の製造品種を集約し、生産性を上げている」

――多品種少量や顧客対応を考えると、拠点ネットワークだけでなく営業スタッフのスキルも重要になると思うが。

 「当社は恐らく業界最大規模であろう約100人の営業スタッフを各営業拠点に配置。顧客への直接販売を担っている。顧客とのリレーションを強化することで、顧客要望にタイムリーに対応。また、製品の耐摩耗性や精度の高さ、設計思想や生産体制に合った製品の提案のほか、顧客の生産効率向上につながる合金材料の提案営業などを行う」

 「超硬合金は基本的に炭化タングステンにコバルトやニッケルを調合して製造するが、粒度や調合量で硬さや靱性が大きく変わる。当社では標準材質として約40種類あり、顧客の要望材質を含めると主要なものだけで70種類にもなる。このラインアップが様々な産業分野の製造工程や被加工材に対応できる強みであり、営業スタッフは要素技術を把握しておかねばならない。顧客の技術担当者と直接会話ができるレベルのスキルが要求されるため、個々の能力は非常に高いと自負している」

高精度検査で品質保持/アジア、米国など海外展開拡大も視野

――顧客との強固なネットワークを構築している背景には、徹底した御社の品質管理もあるのでは。

 「徹底した製品検査等による品質管理は、当社の生命線だ。例えば、ガラスレンズ金型の非球面加工は0・1ミクロン単位の精度が求められる。当社は各種測定器に高機能な検査設備を導入しており、一般の製造現場より温度管理なども厳密に行っている部署で製品検査を行い、顧客の高い要求に応えている」

 「品質保持の観点から、超硬工具・金型は使用に伴いメンテナンスが必要になる。当社は営業スタッフと製造拠点スタッフの綿密な連携で、修理、再研磨などのメンテナンスにも迅速に対応。高いリピート率を実現している」

――今後の営業展開にあたっての注力事項、成長戦略は。

 「2018~2020年度を対象期間とする中期経営計画では(1)成長力・収益力の強化(2)顧客ニーズ変化への柔軟な対応(3)海外展開の加速(4)新製品・新技術開発-の4点を重点施策に挙げている。初年度の2019年3月期は、連結で売上高183億円、経常利益14億3千万円、純利益9億6千万円を見込む」

 「現在当社の製品は約6割が自動車部品加工向け。今後は医療・化粧品、環境・エネルギーなど成長が見込まれる分野への販売にも注力していく。また、硬さや製品寿命、縦弾性係数(変形しにくさ)で優位性のある超硬合金のメリットをPRし、既存特殊鋼分野の代替ニーズなども掘り起こしていきたい」

 「当社の粉末冶金技術を駆使した新材料の研究開発を強化した耐摩耗工具以外の進出、超精密加工技術を用いた研究開発の進展による新産業分野の開拓にも注力。航空・宇宙関連向け切削工具用素材・部品、ヒートシンク・触媒などの分野をターゲットにしていきたい」

 「高度な知識を有した営業スタッフによる営業力、熟練した技能者集団と最新加工設備による生産技術力、粉末冶金技術と素材開発実績に裏付けされた開発力の三位一体で、幅広い業種の顧客を獲得していく」

――海外戦略については。

 「タイとインドネシアに製造拠点、これらとマレーシアと中国の四カ国に営業拠点を持っている。米国・韓国は日本からの輸出で対応する。製造拠点には日本から現地に素材の合金を搬入。現地に進出する日系企業向けを主な顧客として販売している。現在、売上高に占める海外販売比率は約16%(前期実績、海外法人+日本からの輸出分の合算)。国内マーケットは今後、内需縮小が予想されるが、海外はまだ伸び代があると思っている」

 「米国は現在輸出対応できるレベルの数量だが、もう少し拡販できるのではという思いはある。当面はタイとインドネシアの両製造拠点からASEAN地域とインド、中国向けの商圏拡大に注力。インドのローカルメーカーとの取引実績があり、日系だけでなく地場企業の更なる掘り起しも検討していきたい」

――来期、創立70周年を迎える。

 「当社にとって大きな節目。来期に新たなスタートを切れるよう、業務効率による収益力向上、国内事業の深掘りによる売上拡大、海外展開の拡充、今後見込まれる成長分野への参入などの戦略を愚直に遂行していく」

社名とブランド「フジロイ」の由来は

 冨士ダイスの超硬耐摩耗工具・金型のブランド「フジロイ(FUJILLOY)」は、冨士ダイスの社名と合金のアロイ(alloy)を組み合わせた造語。また社名の「冨士」は、創業者が修行時代を過ごした山梨県から見えた富士山がモチーフになっているという。創業から70年。社名、ブランド名ともに業界では高く認知されている。

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