「選挙に出なければお金をあげます」議員の4割が逮捕された徳島県神山町

徳島県神山町は今、大いに揺れています。2015年12月に行われた町議会選において、候補予定者に複数の町議が金銭を渡して立候補を断念させて選挙を無投票にさせた「無投票工作」が行われたことが発覚したからです。

この無投票工作の発覚により、2018年7月6日時点で、10人いる町議の内、4人が逮捕、1人が任意捜査を受けている状態で町政は大いに混乱しています。今回は無投票工作がなぜ起きるかということと、最近の派手な無投票工作のいくつかの事例を紹介します。

お金を渡し、選挙を実施しないようにする「無投票工作」

定数を超えた候補者が立候補し、選挙戦になれば、選挙運動の費用がかかります。したがって、選挙戦にかかる費用未満の金銭を候補予定者に渡して立候補を断念させるということができれば費用を節約することができます。このように、立候補を断念させる見返りに金銭等を渡し、選挙を無投票にすることを無投票工作と呼びます。当然ながら、候補者買収という選挙違反であり、渡した方も受け取った方も罪となります。この無投票工作は有権者から選挙の機会を奪い、民主主義の根幹を揺るがす、悪質な犯罪です。

無投票工作は他の選挙違反と比較してしばしば大規模な違反となり、その自治体の政治を麻痺させるレベルまで発展します。それは議会選で無投票工作が行われた場合、議員の大半が工作に参加していることが多く、その結果、多数の議員が罪に問われ、逮捕起訴されるからです。今回の神山町の事例でも、7月6日時点で町議10人中4人が逮捕されています。また、最近起きた無投票工作事件である2003年の千葉県の睦沢町議選では、町議16人中10人と半数以上が逮捕されています。

無投票工作が起きる要因は様々なものがありますが、1つとして買収などの非合法な選挙運動が激しい地域で起きやすいということが挙げられます。このような地域では選挙戦となると表に出てこないお金も含めると多額の金銭が使われていると予想されるため、選挙戦を回避しようと様々な談合や買収が行われやすいからです。

「町議選では1千万円、町長選では1億5千万円」買収が相次いだ伊良部町議選

派手な無投票工作の事例としては、沖縄県の伊良部町(現・宮古島市)において、1994年9月に行われた町議選での無投票工作が挙げられます。この時は定数20に対し、22人が立候補を予定していました。このような状況を受け、現職町議らが談合を行い、それぞれ金を出し合って立候補を予定していた元職に約450万円、新人に約100万円渡しました。その結果、金を受け取った両者は立候補せず、無投票となったのです。

この伊良部町ではしばしば選挙のたびに買収が行われる風土があり、町議選では1千万円、町長選では1億5千万円の費用がかかると言われるほどでした。この町議選の1か月前には町長選が行われていましたが、この選挙が激戦となり、各陣営が多額の金銭を使ったため、一部の町議からもう金がないとの声が挙がり、これが無投票工作につながったと言われています。

この無投票工作はその後の町長派と反町長派の争いの中で外部に発覚し、最終的に町議20人中17人が逮捕されるという事態に発展しました。また議員だけではなく、町長を含めた多数の逮捕者が出ました。当時の伊良部町は訓練用空港しかない離島でしたが、この空港にチャーター機を降ろし20人以上の多数の逮捕者を一度に連行していったということが記録されています。

選挙期間中に引越しをさせた東北町議選

基本的に無投票工作は選挙前に行われますが、選挙期間中に無投票工作が行われた珍しい事例もあります。2003年4月に青森県の東北町で行われた町議選がその事例です。

この町議選では選挙前から町議会議長が主導して無投票工作が行われていました。この工作にはほぼ全ての町議の他、町長も関与しており、議長は立候補しない代わりに助役のポストを与えるという案も出ていました。このような工作が実り、町議選は定数18に対し、18人が立候補して無投票になると思われていました。しかし、立候補届出の締切5分前に町長の親類である元職が立候補するという思わぬことが起きます。そして、助役のポストを約束されていた議長も立候補取り下げを止めるという事態に発展し、定数18に対し、20人が立候補をして、選挙戦になってしまったのです。

この事態に工作に加わっていた町議が集まって町長を糾弾しました。ここで立候補を取り下げる予定であった議長含めた候補者2人を早急に町外への転出届を出させるなどの決定がされました。これは地方議会の候補者は町外に転出届を出して引っ越しをしてしまった場合、被選挙権なしとして全票が無効票となるため、2人が町外に転出した場合、実質的な無投票となるからです。そして、議長と駆け込みで立候補した町長の親類が選挙中に転出届を提出し、実質的な無投票となりました。当然ながら、地方議会の選挙中に候補者がその自治体外に転出届を提出するなどというのは前代未聞のことでした。

しかし、選挙後に思わぬ事態が起きます。立候補を取り下げた議長(選挙後の時点では前議長)には助役のポストを与えるという合意がありましたが、町長がこの約束を履行しなかったということで、立候補を取り下げた議長(この時点では前議長)が記者会見を開いて無投票工作を暴露してしまったのです。この暴露により、町議18人中14人が書類送検されるという事態に発展しました。また、町議だけではなく、町長も逮捕され、責任を取って辞職した他、関与した町議の大半が辞職をしなかったためリコール運動がおこるなど、町政は大いに混乱したのです。

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