⑤災害の脅威 広大な遺跡 難しい保存

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一つ、南島原市南有馬町の「原城跡」(国指定史跡)。かつて巨大な城塞(じょうさい)だった海に面した丘陵は、6月下旬に降り続いた雨で、のり面の崩落や亀裂が複数の場所で起きた。被害場所を覆う青いブルーシートが痛々しい。
 原城跡は1637年から翌年にかけて、キリシタンが多かった島原半島や天草の農民と幕府軍が激戦を展開した「島原・天草一揆」の古戦場。本丸跡、二の丸跡、三の丸跡などで構成し、広さは約46ヘクタールに及ぶ。それだけに保存は簡単ではない。
 原城跡について、南島原市は2011年、整備基本計画を策定し、昨年3月に補訂した。市の代表的遺跡として、地域活性化に寄与するように保存継承していく方針を定めた。
 市は原城跡の長期的な調査や保全整備に向け、公有地化を進めている。1979年度から史跡内の民有地の買い上げを開始し、現在は市、国、県が史跡全体の6割を所有する。今後も昨年7月に発足した地権者の「原城跡所有者の会」(141人)などと交渉を進める。市世界遺産推進室は「資産の所有自治体として半永久的に管理できるようにしたい」とする。
 原城跡では、大雨や台風時などに小規模の崩落がしばしば起きている。島原半島の中央部には活火山の雲仙・普賢岳があり、常に噴火や地震、津波など自然災害の脅威に直面しているといえる。市の担当者は「地形が変わるほどの大崩落が起きれば構成資産としての価値が損なわれてしまう」と危惧する。
 本丸跡の南東側は海に面した高さ約30メートルの断崖で、侵食や風化が進んでいる。崩落を最小限に抑えるため、断崖の下部をコンクリート板などで補強している。ただ、世界遺産や文化財としての価値を損なう現状変更は認められない。のり面全体をコンクリートで固めるような工法は景観を大きく変えてしまうため、不可能だ。
 潜伏キリシタン遺産は、12資産全体で顕著な普遍的価値を証明するシリアル・ノミネーション(連続性のある遺産)。資産が一つでも欠けると、世界遺産価値の証明が困難になる。
 市の担当者は「対策工事が必要な際は文化庁と入念に相談し、早急に進めたい。(遺産の価値が損なわれて)構成資産がある他の自治体に迷惑を掛けないように、細心の注意を払って対応していく」と気を引き締める。

海に面した断崖の下部をコンクリートで補強している原城跡=南島原市南有馬町

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