金属行人(7月11日付)

 チェスや将棋でコンピューターの優れた性能がアピールされ「AIの時代がいよいよ来る」との声も大きくなっているが、どこか空々しい感じがしているのは私だけか▼少し落ち着いて考えてみる。リチャード・ドーキンス博士は言う。「人一人の脳の神経細胞をつなぎ合わせると、どのぐらいの長さになるか」と。答えは何と「地球25周分・100万キロメートル」。さらに氏は続ける。「各神経細胞の末端には樹状突起というのがあり、そこからは2千程度の突起が出ている。それが別の細胞と複雑にネットワークを組む」▼そのつながりの数は一体どれぐらいになるのか。何と「200兆」。これら一つ一つをコンピューターのスイッチ単位と考えると、何と人の脳は「現在使っているデスクトップパソコンの1千万倍の能力を持つ」ことになるそうなのだ。それを、数億年かけて生物は構築してきた▼ただし、一つ問題がある。どのようなハイグレードの頭脳でも「使わなければ何にもならない」。当然のことだが。最新AIに情報処理させ、はるかに有能な人間はゆったりと趣味にでも興じる。そんな世界が本当にやってくるのか。せっかくの能力を使わなくなり、AIにできない単純労働をうれしそうに人がこなす、そんなことになりはしないか。

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