日ハム、川崎、栃木…他競技の強豪3チームが実現した「勝者の経営」とは…

「Cross League Talk」でNPB、Jリーグ、Bリーグの関係者が登壇した【画像:(C)PLM】

「Cross League Talk」でNPB、Jリーグ、Bリーグの関係者が対論

 100年に近い歴史を誇るプロ野球、25周年の節目を迎えたJリーグ、3年前に産声を上げたBリーグ。三者三様、歴史の深みに差異はあれど、日本のスポーツシーンをリードするプロリーグであることは共通している。5月25日に開催された国内初のスポーツ業界合同中途採用イベント「パ・リーグ キャリアフォーラム」では、パ・リーグから北海道日本ハムファイターズ、Jリーグから川崎フロンターレ、そしてBリーグからリンク栃木ブレックスの3チームの関係者が登壇した。運営面でスポーツビジネスの最前線に立つ先達によるトークテーマは、競技やリーグの特徴から一枚岩のチームの作り方、スポーツビジネスの可能性まで及んだ。「勝者」がチーム経営において、重視しているものとは??

――野球、サッカー、バスケットと、日本を代表するプロリーグでチームの運営をされている方々に集まっていただきました。競技ごとの違いや、強いチームの共通項など、チーム経営の本質を紐解ければと思います。

森野貴史氏(株式会社北海道日本ハムファイターズ)「事業統括本部ゲストリレーション部部長の森野と申します。事業広報的な職務で、球場での運営や演出など、お客様と直接関係する部門を担当しています。北海道日本ハムファイターズは2004年に東京から北海道に移転しました。私たちはそれを誕生と呼んでおり、新しいチームとして生まれ変わったと認識しています。その後はリーグ優勝を5回、日本一も2回達成できました。東京時代から事業も変革し、新たなチームとして様々なチャレンジを行ってきました」

井川宜之氏(株式会社川崎フロンターレ)「営業部部長代理兼集客プロモーショングループグループ長の井川と申します。昨年はクラブ創設21年目にして初めて、優勝することができました。魅力的なサッカーをトップチームが展開しつつ、事業面では少し変わった、面白くて心温まる企画をやっていくのがクラブの哲学としてあります。集客プロモーションを担当していまして、今日も午前中は真剣に選手たちと激論を交わしながら、6月のファン感謝デーで選手と披露するダンスの練習をしてきました」

藤本光正氏(株式会社栃木ブレックス)「取締役副社長をしております、藤本と申します。栃木ブレックスはBリーグに所属していますが、誕生は2007年に遡ります。当初は企業チームが主体のJBLというリーグに参戦をしようと試みて、まずは2部からスタートしたチームです。JBL2で1年目に優勝することができまして、翌年から昇格しました。参入3シーズン目にはJBLで優勝できたのですが、その後はかなり落ち込んでいます。Bリーグが発足した1年目には優勝することができました」

チーム力と経営基盤を両立させるために

――北海道日本ハムファイターズは直近10年間でリーグ優勝が4回、川崎フロンターレとリンク栃木ブレックスは昨年のチャンピオンチームです。強いチームならではのクラブ経営があるのではないでしょうか。

森野「当然、チームは強い方がいいと思います。ただ、チーム作りとは別のサイドに、私たちのような事業サイドが存在しています。事業サイドとしての理想としてはチームの勝敗にかかわらず、どのように事業を成立させるかがミッションです。

 実際、日本一になった翌2017年はリーグ5位に低迷しましたが、観客動員数を伸ばすことができました。そのように、いかにしてお客様に来場していただき、ビジネス展開をするのかをいろいろと考えて取り組んでいます。一方、チームはスカウティングと育成という明確な方針の元チーム作りを行っていて、それが結果として表れていると思います」

井川「どのプロスポーツも強さはとても大切だと思います。JリーグとBリーグがプロ野球と大きく違うのは、昇降格制度があるので、一気にビジネス環境が変わる可能性があることです。だからチームの強さは大切ですが、常に強いチームを作り続けるのは難しい。強くても弱くても関係なく、例えば『川崎生まれで川崎フロンターレが好きだから応援する』という人が多くいて、その人たちが年間チケットを購入してくれれば経営は安定します。そのあたりは、どのプロスポーツも同じではないかと思います」

藤本「Bリーグになってから、やはり強いチームがより強くなる仕組み上の構造を感じます。分配金や賞金などをチームの強化に再投資できるので、なるべく早くに強い位置にいると、また更に強くなるための原資が生まれます。

 リンク栃木ブレックスはチームの理念を『強くて愛されるモチベーションが溢れるチーム』と言っています。スポーツ業界の方から『どっちやねん』と突っ込まれることがありますが、やはり会社の事業経営としては、強さとは関係なしに愛されるチームを作って、安定経営をすることが求められます。

 その一方で『強さ』もきちんと理念に入れようということです。強いチームを作ろうとする努力や姿勢をファンの方に理解していただいて、選手達もファンがのめり込んで応援したくなるようなハッスルプレーやルーズボールを追う姿勢を心掛けたり」

放映権料はリーグ管轄のJリーグとBリーグ

――収益の構造はだいぶ違うのではないかと思いますが、チーム運営の中で特に意識の高いところ、あるいは課題を残すところは、どのあたりなのでしょうか。

森野「スポーツビジネスはチケット収入とマーチャンダイジング、スポンサー収入と放映権料の4大収益に支えられています。先ほどの話では、分配金のようなところがプロ野球界とJリーグ、Bリーグと仕組みが違います。ただし、パ・リーグではパシフィックリーグマーケティング株式会社を作って、一部ではありますが事業展開もしましょうという形ではあります」

井川「JリーグとBリーグは似ているのではないでしょうか。放送権はリーグが管轄していて、ダゾーンとの大型契約がクラブに分配される流れは、プロ野球と大きく違うところかなとは思います。リーグに集約した権利を購入してくださったスポンサーが応援してくださいます。Jリーグの場合はJ2、J3まであるので、その分もしっかりと分配をしなければならない点も、プロ野球との違いかもしれません」

藤本「Bリーグの構造自体はJリーグと似ている部分だと思います。課題があるとすればアリーナの問題ですね。日本国内を見渡しても、キャパシティが1万人を超えるようなアリーナはほとんどありません。チケットが完売した試合を全部足しても、売り上げのマックスがほぼ決まっています。

 一方で、BtoCの売り上げを増やしたいとう前提があります。BtoBでは景気の影響を受けやすく、1社依存が大きいので、なるべくBtoCで安定的な土台を作っておきたい。もっと言えば、ちゃんと集客ができているからこそスポンサーにも広告価値をわかっていただけるので、まずは集客だと思います。ただ、キャパシティが5000人ほどで止まると、そこから先はより広いアリーナを作っていかなければという課題感があります」

――Bリーグはシーズン60試合ですから、1試合の動員が5000人でも最高で30万人。プロ野球やJリーグなら、規模の大きいところは1試合4万~6万人だったりします。

森野「北海道日本ハムファイターズがソフトであれば、ハードとしての球場とどのように融合しながらビジネス展開できるかが課題であると捉えています。今は新球場を作ろうとしており、スポーツビジネスの中でどのようにマッチングしながらシナジーを出していくのか。運営と箱がいかに一緒になって作り出すかは、JリーグもBリーグでも同じではないでしょうか」

井川「そうですね。サッカーは試合数が少なくて、年間のホームゲーム20試合ほどで稼がなければなりません。今は2万5000人ほど入るスタジアムで、ありがたいことにほぼ満員です。ただ、これ以上お客さんを入れられない状況でさらに稼ぐにはどうすればいいのかという悩みはあります。他チームのように、サッカーの試合以外のフットボールビジネスやノンフットボールビジネスで稼ぐことも必要かなと思っています」

裾野の拡大を目指してサービスも多様化

――例えば、Jリーグはアカデミーの運営や裾野の部分を意識されていると思いますが、収益性の観点も大きなポイントなのでしょうか。

井川「やはり裾野をしっかり作ることはとても重要なので、そこは採算度外視というか。サッカーに触れたことがある、スポーツに触れたことのある人が、将来は何かのスポーツでファンになってくれて、試合を観に来てくれれば、それはすごくいいことです。プレーしたことがないスポーツを、大人になってから観に行くのは難しいと思います。選手を育成するのも大切ですけど、ファンを作ることも重要ですね」

藤本「そのような選手のプロモーション活動を積極的に行っているチームだと、スポーツ業界にいれば凄くわかります。飛び抜けている存在だと思います」

井川「川崎にはスポーツが根付かない過去の歴史がありまして、チームが発足したときも人気がなかった。お客さんは全然入らないし、関東にはいろんなスポーツも娯楽もある中で、どうしたら川崎フロンターレを選んでもらえるか。選手達と一緒に考えてきたのが今、形になっています。たまにやりすぎて、選手達から『一体どこを目指しているのかわからない』と言われるときもあります。それもクラブのカラーだと理解してもらって。川崎フロンターレに来たら『まずはバナナの被り物をかぶらないとだめだぞ』と(笑)」

藤本「リンク栃木ブレックスでも、いちごを被せたり(笑)いろいろとしていますね」

――Bリーグは物理的にもファンとの距離が近い。

藤本「バスケットの魅力を聞かれた時に『迫力』と『近さ』を説明することは多いですね。コートの近くにいると選手の話が聞こえますし、床のキュッキュッという独特のフロア音もあります。身体がぶつかり合う迫力を感じられるところも、野球やサッカーと違う魅力として伝えることが多いですね。チケットもコートに近い席が高価格で設定されていますけど、だいたい高い席から売れていきます。コアな人ほど、高いお金を払ってでも迫力を体感したいのかなと思います」

森野「プロ野球も、いろんな形でサービスを展開しています。今、よく言われる、様々なターゲット層に向けた物を、各球団がそれぞれ施策としています。地域に根付いたものは、短期的か中長期的に見るのかという話にもなるので、そうしたファン作りは各球団が取り組んでいます。それが遠回りだと思っても、意外と近道だったりもして。その辺りは同じようにして取り組んでいます」

これからのプロスポーツに求められる人材

藤本「プロスポーツ界の先輩にお聞きしたいのですが、ファンを作るためのマーケティング部門はいかがでしょうか。デジタルやITの領域は当たり前になってきています」

森野「まずはベースを作ることが大切であると、Jリーグ、Bリーグも認識されていると思います。当然、北海道日本ハムファイターズも顧客のデータやチケットの購入者データなどを持っていて、それらを分析しています。しっかりとしたデータを持った上で、ターゲット層の分かれたイベントの動員を考える時は、どの層に何人来ていただくかを考えておかないと。全部をマスで考えてしまうと大枠になってしまうので、その辺りは考えながら施策を練っています」

井川「メインスポンサーが富士通なので、デジタルの領域にはもちろん取り組んでいます。もちろん、それは大切で時代の流れでもあります。その一方で、人の心に訴えるのもスポーツの一番の強みです。先日、お亡くなりになり、大変お世話になっていた西城秀樹さんへのメッセージを書いたり、競技場に曲を流したりしました。SNSなどを見ていると、そういったことにファンは凄く反応します。だから、両方とも大切にするのが重要と思います」

――近年はプロスポーツチームが随分と、デジタルやマーケティングの人材を求めています。最後に、来場者の皆さまへ向けてのアドバイスなどをいただいてもよろしいでしょうか?

森野「転職を経験して、プロ野球界でお世話になっている身として思うのは、やはり「自分の強みをどこに持つのか」が絶対的に必要だと思います。それをどのように活かしていけるかは、中に入ればもっと可能性が広がっていくと思います」

井川「スポーツ界で働きたい方が多いと思います。仕事は華やかに見えながら、とても地味で、大変なこともあります。それでも、日本のスポーツ界はこれからもっと伸びていくような環境にあると思いますので、入るのが難しいかもしれないですけど一緒に日本のスポーツを盛り上げていただければと思います。それから、川崎フロンターレの応援を是非、忘れずにお願いします(笑)」

藤本「転職フェアにからめての話ですと、やはり先ほども話に出たデジタルやITに強い人材がスポーツ界で必要とされるのではないかと思います。弊社としてもその分野はピンポイントで、現在はデジタルを使って戦略を立てたくてもノウハウを持った人がいない。特殊能力だからだと思いますので、デジタルの知見もあって、なおかつスポーツに対する愛情や人の心がわかる。今後はその両輪を持った人材をリンク栃木ブレックスは必要としていますし、スポーツ界全体でも時代の流れとして求められるのではないかと思っております」

 目まぐるしい情報化社会にあって、スポーツを取り巻く環境も忙しなく変化を続けている。オリンピックを2年後に控えた日本にあって、この流れは加速の一途をたどるばかりだ。プレーヤーだけではなく、スタッフもまた、プロスポーツのフィールドで切磋琢磨の日常に身を置いている。現場の声から浮き彫りになった、設定されているハードルは決して低くはない。だが、それを乗り越えたスポーツビジネスパーソンが、世の中のニーズに応えるべく集えば――。日本のスポーツ界が、さらに発展、展開、拡大していく。

(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2