⑥ガイド育成「数と質」 両立が不可欠

 禁教下で隠れて受け継がれてきた潜伏キリシタンの信仰。「見えにくい」価値の説明だけでなく、教会見学の際は「信仰の場」としてのマナーも伝える必要がある。ガイドの役割は重要だ。
 県は2014年度から、NPO法人長崎巡礼センターに委託しガイド養成講座を開催。17年度までに84人が「巡礼ガイド」の資格を得た。県観光振興課は「各地域で軸になってほしい」と期待する。だが、構成資産がある自治体の中には、ガイド不足が不安視される地域もあり、各地で養成に努めている。
 五島市世界遺産登録推進協議会などは9日、市内でガイド研修会を開いた。約50人の参加者は、講師を務めた福江教会主任司祭の中村満神父(61)の話に耳を傾けた。
 市内の構成資産「奈留島の江上集落」と「久賀島の集落」の案内は民間ガイド組織が担う。市観光物産課によると、市内のガイド4団体に68人が在籍するが、このうち両資産の説明ができるガイドは18人にとどまる。「登録効果で観光客が増えれば対応できない」。13人が所属する「五島市ふるさとガイドの会」の川口進会長(70)が危機感を口にする。
 同会は、世界遺産と別にバスガイドやまち歩きガイドも請け負っていて、既に人員はぎりぎりの状態だ。増員の考えはあるが、「研修を受けて一人前になるまで1年はかかる」(川口会長)。ガイド料だけでは十分な収入にならず、大半は退職後の60代以上が占める。若い世代のなり手がいないのが現状だ。
 過去には、観光客が教会に土足で踏み込んだり、物を勝手に動かしたりするのをガイドが黙認するなど、教会側とのトラブルも起きた。中村神父は研修会で「教会は弾圧を受けながら信仰を守った人々が建てた。建物を見せるだけではなく、歴史的な背景を伝えてほしい」と訴えた。
 ガイド4団体は3年前に連絡協議会を設立。「質」の向上を目指す研修会などを通年で開いている。一方、関係者からは「基準が厳しいと人が集まらない。レベルを下げざるを得ない」と本音も漏れる。
 人員を確保しつつ、ガイドの質も向上させなければならず、ガイド団体は「数と質」の両立という難題に直面している。中村神父は「歴史や建築、宗教などの専門家で構成するサポートチームを作り、ガイド団体を支え、指導する仕組みが必要ではないか」と提案する。

研修会で講師の話に耳を傾けるガイドら=五島市役所

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