国連、SDGsの達成状況を発表 紛争や気候変動で飢え増加

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国連はこのほど、発効から3年目を迎えたSDGs(持続可能な開発目標)の達成状況をまとめた「持続可能な開発目標報告書2018」を発表した。17目標に関連する様々な分野において進展があった一方で、紛争と気候変動関連の災害によって栄養不良に陥っている人口が2015年の7億7700万人から2016年には8億1500万人に増加していることが分かった。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

報告書によると、2000年以降、1日1.9ドル未満で生活する「極度の貧困層」の半数が暮らすサハラ砂漠以南のアフリカでは妊産婦死亡率が35%下がり、南アジアでも女児の児童婚が40%以上減少した。後発開発途上国における電力普及率も上昇し、世界的に労働生産性も上がっている。現在までに、持続可能な消費・生産の政策やイニシアティブを策定している国は100カ国を超え、世界は共通の課題解決に向けて前進してきた。

しかし、こうした流れとは裏腹に、このままでは2030年までの目標達成が危ぶまれる分野もある。2015年を境に、紛争や気候変動による災害によって栄養不良に陥っている人口は増加に転じた。2013-2017年までの5年間の地球の平均気温は過去最高を記録し、2017年の災害による経済損失も過去最高額の3000憶ドル(約33兆円)に達している。

また、世界の幼児や思春期の子どものうち最低限の読み書きや計算ができる人口の割合は42%と未だ半数に満たない。報告書は男女格差についても指摘しており、女性や女児に対する差別は減少傾向にあるものの、男女格差は引き続き縮まっておらず、男性に比べて女性は権利や機会が妨げられているとする。

国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、「現時点でどこまで達成できているかを把握せずに、SDGs達成のための計画を確実に進めることはできない。達成期限の2030年まで12年しかない中、各ステークホルダーは協力的なパートナーシップを構築し、緊迫感を持って取り組まねばならない。大規模な変化を生むことが求められる」と述べている。各目標の主な達成状況は以下の通り。

目標1 貧困をなくそう 
• 極度の貧困率は1990年と比べると3分の1に減少
• 貧困を終わらせるには、ライフサイクルに応じた社会保障制度が必要だが、社会保障給付の対象者は世界人口の45%。40憶人は社会保障制度のない状況で暮らしている
• 7憶8300万人が極度の貧困状態にあり、半数はサハラ砂漠以南のアフリカ、約3分の1は南アジアに暮らす

目標2 飢餓をゼロに 

• 紛争や気候変動関連の災害、格差の拡大によって栄養不良に陥っている人口が2015年の7億7700万人から2016年には8億1500万人に増加

目標3 すべての人に健康と福祉を 
• 5歳未満の幼児死亡率は2000年から2016年にかけて47%低下。5歳未満の死者数も990万人から560万人に減少した
• 2000年以降、サハラ砂漠以南のアフリカでは妊産婦死亡率が35%、5歳未満死亡率が50%低下した
• 2030年までに全世界でマラリアを撲滅する目処は立っていない。2016年、マラリア患者は2億1600万人に達し、2013年の2億1000万人を上回った

目標4  質の高い教育をみんなに 

• 2010年の時点では初等教育を受ける人口が63%だったが、2016年には70%に増加
• 幼児と思春期の子どもの58%は最低限の読み書きと計算能力を身に着けていない

目標5 ジェンダー平等を実現しよう 
• 南アジアでは女児の児童婚が40%以減少した
• 女性が無償の家事や育児、介護労働に従事する時間は、1日あたり平均で男性の3倍に上る

目標6 安全な水とトイレを世界中に 

• 2015年時点で、10人中3人が安全に管理された飲料水サービスを受けられていない。10人中6人は安全に管理された衛生サービスを利用できない状態にある
• 2015年時点で、23億人が基本的な水準の衛生サービスさえ受けられず、8億9200万人が屋外排泄を続けている

目標7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに 
• 2016年の時点で約10億人が電力を利用できず、そのほとんどは農村部に暮らす
• 後発開発途上国では、電力を利用できる国民の割合が2000ー2016年にかけ倍以上に伸びた

目標8 働きがいも 経済成長も 

• 世界的に労働生産性が上昇し、失業率は低下した
• 若年失業率は成人の3倍に上る
• 調査した45カ国中40カ国に男女の賃金格差があり、その差は12.5%だった

目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう 
• 世界の炭素強度は2000年から2015年にかけて、付加価値1ドル当たり二酸化炭素換算で0.38キログラムから0.31キログラムへと19%下がった

目標10 人や国の不平等をなくそう 
• 2010年から2016年にかけ、データが入手できる94カ国のうち60カ国で、最貧困層の40%の所得が国民全体の所得よりも急速に成長した
• 2017年に記録された送金総額6130億ドル(約68兆円)のうち4660億ドル(約51兆円)は低・中所得国に送金された

目標11 住み続けられるまちづくりを 

• 世界人口の420万人は環境大気汚染が原因で亡くなり、都市に暮らす10人中9人はWHOの基準を上回る汚染された空気を吸っている
• 2000年から2014年にかけて、世界の都市に暮らす人口のうちスラムで暮らす割合は28.4%から22.8%に減少した

目標12 つくる責任 つかう責任 
• 2018年までに、108カ国が持続可能な消費と生産に関する国内の政策とイニシアティブを策定している

目標13 気候変動に具体的な対策を 
• 2017年の時点で、災害に起因する経済的損失は3000億ドル(約33兆円)を上回った。北大西洋のハリケーンによる被害が史上最大規模に達したことが一因
• 5年間の地球の平均気温は過去最高を記録した

目標14 海の豊かさを守ろう 

• 保護が必要な海洋生物多様性水域が拡大。重要な海洋生物多様性水域は2000年の30%から2018年には44%に拡大した

目標15 陸の豊かさも守ろう 
• 地球上の植生被覆面積の約5分の1は、1999年から2013年にかけて、一貫して生産性が低下しており、10億人以上の生活が脅かされている

目標16 平和と公正をすべての人に 
• 世界で有罪判決を受けないまま拘束されている受刑者の割合は、過去10年間でほぼ横ばい(2003-2005年の32%に対し2014-2016年は31%)

目標17 パートナーシップで目標を達成しよう 
• 2017年のODAの総額は1460憶ドル(約16兆円)で2016年から0.6%減少。2016年の途上国の能力開発や国土計画に拠出されたODAは200億ドル(約2兆円)で、2010年以降、同水準を保っている
• 2016年の時点で、固定系高速ブロードバンドを利用できる人々の割合は、開発途上国の6% に対し先進国では24%に上る

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