“退屈な”イングランドが打つ「釘」と、それを抜くクロアチア。崩された崩しの策

先日行われたワールドカップ準決勝、イングランド対クロアチアは非常に面白い試合となった。

最終的には延長戦の末にクロアチアが2-1で勝利を収め、同国初のワールドカップ決勝進出を果たした。

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しかし、この試合は大会で最も「セッティングされた」チームであるイングランドが、ついにそれを破られたという内容でもあった。

イングランドは「釘」を打つ…だから退屈

今回のイングランド代表は一貫して3-3-2-2を使用している。これは初期配置の段階で「4バック+2ボランチキラー」としての役割を発揮する。

2列目のリンガードとデル・アリが、相手のサイドバックとボランチの間にポジションを取ろうとし、二人で4人を釘付けにする。

ケイン+スターリング+リンガード+デル・アリの4人で、相手の4バック+ボランチ2枚、合計6枚の動きを牽制できる。だから他の場所に数的優位ができる。

外にウイングバックのトリッピアとヤングが上がってくることで、精度が高いクロスボールを入れられる。相手のサイドハーフが下がってきても、後ろにはウォーカーがいる。

つまり、相手の形が4バック+2ボランチならば「イングランドは自分たちから動かなくてもいい」。アクションを起こさなくても陣取りで勝利でき、クロスやセットプレーでゴールを奪える。

最初からきっちりセッティングされているからこそ、意表を突くような動きをしなくてもいい。だから「個人能力とセットプレーとクロスだけ」と思われても当然のサッカーだ。

クロアチアの「釘抜き」

ただ、イングランドのシステムには弱点がある。ワンボランチのヘンダーソンがカバーするエリアが広くなりがちなのだ。

クロアチアはこの試合、フォーメーションを4-3-3に変更していた。肝となるのが中央の3枚。ブロゾヴィッチをアンカーとし、その斜め前にラキティッチとモドリッチを配置する。

これは明確な「イングランド崩し」である。

対4バック+2ボランチ特化を選択している相手に対して、中央の人数を3人に増やし、釘付けにされて前線と分断させられないように配置。

ラキティッチやモドリッチらを含めた前線は、攻撃の際にヘンダーソンの周辺へ入り込んで牽制。これでイングランドのセッティングを崩した。

クロアチアは試合開始直後に失点を喫し、さらに司令塔モドリッチも前半決して眩しいプレーをしたわけではない。しかし、彼らの動きによって、前半の時点ですでにイングランドは崩れていた。

デル・アリとリンガードが頻繁に下がってヘンダーソンの周囲をカバーしており、システムの根幹がか細くなっていたからだ。後付けと言われるかもしれないが、この時点でイングランドの命は風前の灯だと思えた。

「セッティング」をどう維持するか、どう変化させるか

結局イングランドはその後クロアチアに2点を許し、延長戦を経て敗北することになる。

最終的な敗因は「セッティング」が崩れたときにどうするか、という手段がなかったことだろう。

それはチームの根幹である2列目、リンガードとデル・アリと同じバランスでプレーできる3~4人目が不在で、オックスレイド=チェンバレンが怪我で使えなくなったことが響いていたともいえる。

あるいは、このクロアチア戦に限って言えば、あまりにも早い時間帯に先制点を決めすぎたという点も。もしあんな早くリードを得ていなければ、リンガードやデル・アリはあそこまで守備に気を使うことはなかったのではないか。

サッカーは選手がやるものであり、いくらルールで縛ってもメンタルが影響する部分は出てくる。

サウスゲイト監督は、机上では今回のワールドカップでもっとも「セッティング」した指揮官ではないか。ただ、やってくることが全て分かってしまえば、対処することは簡単である。

クロアチアのダリッチ監督も、この方法はすぐに思いついたはず。なにせシンプルだ。

戦術はすぐに分析される。現代のサッカーは、机上のセッティングだけではすぐに勝てなくなる…まるで教科書のような試合だったといえよう。

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