雨ニハカテズ

 校舎を縦に揺さぶるほど雨が降った日。一郎は、教室でまっ黒なぬるぬるしたものに身をくるみ、ずきんをかぶった化け物のような3人の大男を目撃する。怪異(あやかし)の始まりだ。

 宮沢賢治の研究者として知られる天沢退二郎氏の傑作ファンタジー「光車(ひかりぐるま)よ、まわれ!」。工事中の道路にできた水たまりで、子どもがおぼれ死ぬという、ぞっとする事故が続く町で《水の悪魔》の正体に気づいた一郎たちは、世界を守るため三つの光車を探す。

 西日本豪雨では、河川、ため池の堤防が決壊、無数の建物に浸水や流失といった被害が及んだ。専門家は雨量が旧来想定の限界を超えたと指摘。堤防などの安全性を高め、住宅の設計見直し、耐水化重視の防災を進めるべきだと強調する。

 広島県や岡山県はこれまで特に雨が多い地域ではなかったが常識的な設計では、もはやけた外れの降雨を支えきれなくなった。堤防の強化には巨額の建設費がかかるが命には代えられない。地震への備えに比べて遅れている一般家屋の耐水化も喫緊の課題である。

 「光車よ、まわれ!」は「風はまだやまず、窓がらすは雨つぶのために曇りながらまだがたがた鳴りました」と最後の一行が結ばれている賢治の「風の又三郎」の続きのようにも読める(自由国民社「知の系譜 少年少女の名作案内」)。

 三つの光車が回り始めると水が一斉に引いていくのはファンタジーゆえだ。現実世界では「雨ニモマケズ」の水際強化と「雨ニハカテズ」の早めの避難でせめて命は守り抜きたい。おびただしい死者の数におののきながら、そう痛感する。

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宮崎日日新聞 MIYANICHI ePRESS

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