水害対策はハザードマップをフル活用 三井不動産、4種類のリスク評価に高潮も追加

東京・日本橋室町三丁目で三井不動産が開発中のビル。地下に浸水対策も施した発電・熱供給施設も整える(写真は全て三井不動産提供)

ハザードマップを毎年改定

東京・日本橋を中心に多くのオフィスビルを所有・管理する三井不動産。テナントへの事業継続サポートも含め、災害対策に注力している。主にオフィスビルにおける水害対策を取材した。

三井不動産は浸水については当初はゲリラ豪雨を主に想定。しかし2011年の東日本大震災をきっかけに、「津波のほか、河川氾濫など幅広く被害を考える必要があると考えた」と同社ビルディング本部運営企画部資産管理グループ統括の清水美貴氏は語る。

5年間で防災対策やテナントも含めたBCP(事業継続計画)サポートを強化。約200億円をかけて耐震診断や非常用電源の長時間化などを推進、浸水対策も同時に進めた。オーナーから借り上げているマスターリース物件に対しても推進している。2012年以降の新築物件はこの仕様を取り入れている。

三井不動産が作成しているハザードマップ。写真の内水など従来の4種類に、このほど高潮も追加した

当然のことながら優先されるものは人命。浸水対策としてはハザードマップを毎年改定している。津波、内水、外水、液状化のリスクと自社物件を地図上に落とし込み、危険度を計っている。3月に東京都が高潮の浸水予想図を発表したことから、今年前述の4つに加えて高潮のリスクも追加した。ハザードマップは新築物件の開発にも活用。かさ上げ工事を行う場合もある。

三井不動産では帰宅困難者対策としてテナントに1日分の食料・水を無償配布。さらに近年は東京都心で再開発の際に帰宅困難者受け入れスペースや備蓄倉庫の設置が容積率割増の条件となっており、災害時に滞在できる空間の確保に努めている。電気関連など設備に関しては3月に開業した「東京ミッドタウン日比谷」(東京都千代田区)のような最新のビルは地上階に重要設備を置いているが、既存で地下などに置いている物件は多くは移設が困難。そのため止水板をハザードマップに基づいた安全確保に必要な高さのものを設置している。

オフィスビルに備え付けられた自家発電機

24時間365日対応の危機管理センター

止水板については手動式以外に電動式の最新のものも導入。1階がガラス張りのビルでは水害時に流れてくる浮遊物がぶつかると割れる危険性もあるため、防潮板など防水設備を館内の通路に設置するケースもある。また地下鉄駅や地下街に直結している物件は地下鉄事業者の設備が充実しているケースも 。2005年に竣工した東京都中央区の「日本橋三井タワー」では荒川の氾濫に備え、東京メトロ銀座線・三越前駅につながる部分の防水扉を充実させている。さらに基礎自治体と協定も結び、周辺事業者と避難訓練も実施している。

最新の事例としては2019年3月竣工予定の日本橋室町三丁目地区第一種市街地再開発事業では、災害対策や環境負荷の低減のため、東京ガスと合同で会社を設立し、コージェネレーション発電により日本橋地区に熱と電気の供給を行う。機器が水没しないよう、地下機械室をアスファルト防水で覆うなどつぼ型潜水艦構造を採用し対策を実施しているという。水災保険を全約150物件に付与しているが、あくまでバックアップであり、被害を防ぐことを大前提としている。

24時間365日稼働の危機管理センター

三井不動産グループでは東日本大震災前から、大規模災害の発生時に災害対策本部を立ち上げる24時間365日対応の危機管理センターを設置。大規模災害が発生すればまずは主要ビルに常駐し管理業を手がける三井不動産ビルマネジメント、設備管理を行う三井不動産ファシリティーズが一次対応を実施。災害対策総括本部の災害復旧部が中心となり復旧手配を実施する。物件を施工したゼネコンに連絡がとれるようにしている。もっと組織的・体系的な対応がとれるよう、ゼネコンとの通信回線の充実や大型物件のゼネコン職員の常駐、物件に近い建設現場への連絡体制確立などを数社と検討しているという。

様々な対策をとっているが、「自分たちだけでの災害対策は限界があり、共助は重要」と清水氏は語る。テナントや周辺事業者、自治体との連携を密にし、訓練も行うことで水害も含めた対策はより強固になるという。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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