⑦世界遺産センター 場所未定で整備先送り

 2007年に世界文化遺産に登録された「石見銀山遺跡とその文化的景観」(島根県大田市)。かつて鉱山町として栄えた大森地区から約2キロの場所に「石見銀山世界遺産センター」がある。
 センターは同年、大田市が約11億円をかけて新築。約2ヘクタールの広大な敷地に展示、ガイダンス、収蔵体験の3棟があり、約400台分の駐車場を備える。指定管理者の事務職4人のほか、調査研究を担当する島根県と大田市の職員計10人が常駐している。
 「ここで石見銀山の全体像を理解した後、現地に足を運んでもらう。まさに世界遺産の拠点」。大田市石見銀山課の山手貴生主任が説明した。
 世界遺産センターは、遺産の保存や整備活用の拠点として、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産条約で設置が推奨されている施設。国内の世界文化遺産では石見銀山のほか、「富士山」(静岡、山梨)、「平泉」(岩手)、「紀伊山地の霊場と参詣道」(和歌山、三重、奈良)で整備されている。
 県は2014年に検討委員会を設置し、世界遺産センターについて検討を開始。翌年8月に基本構想をまとめた。だが、肝心の設置場所が定まらず、前身の「長崎の教会群」の推薦取り下げで世界遺産登録が遅れたこともあって、整備は先送りされている。
 基本構想によると、遺産の全体像を示す総合展示や広報、教育活動を担うセンターを長崎市内に整備。調査研究は長崎歴史文化博物館が担当する。建物は県の厳しい財政などを考慮して新築せず、既存の施設を活用する。
 候補地は「県庁跡地」「長崎駅付近」「大浦天主堂近辺」の3カ所を提示。検討委の議論では、禁教以前に「岬の教会」が立っていた歴史性があり、交通の利便性も良い県庁跡地を推す意見が目立った。
 県は、県庁跡地の活用法や長崎駅周辺の再開発の行方を見極め、センターの設置場所を決定する方針だ。県庁跡地には文化ホール建設も取り沙汰されているが、県世界遺産登録推進課は「どの候補地に決まってもセンターは既存施設の一部を間借りする形になるだろう」と説明する。
 大田市石見銀山課の遠藤浩巳課長は「観光、調査研究、学習の拠点として世界遺産センターは非常に重要な施設」と話す。今後どのようなセンターを整備するのか。県の「本気度」が問われているといえる。

模型などで鉱山の様子を再現している石見銀山世界遺産センターの展示室=島根県大田市

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