裏口入学は東京医科大学だけの問題か?”裏口入学ブローカー”が語る定員割れ大学と超人気医学部の蹉跌

裏口入学は本当にあった?

子供をそんなに医者にしたいですか?

「小学校から環境の整った私立に入れたい」というお受験族の親御さんにとって、かなりショッキングな話題になったのではないでしょうか。

今回の文部科学省局長の汚職逮捕、贈賄側とされた東京医科大学の理事長・学長のスピード辞任でありました。産経新聞や毎日新聞など大手紙でも「局長への便宜依頼は理事長から」「裏口入学を疑われる不正合格者のリストが複数保存されている」といったニュースが報じられ、まあ非常に酷いものがあります。

かねてから東京医科大学については内部から様々な情報が流出している状態で、昨年週刊誌が取り上げる目前であったという話もあるぐらいに界隈では知られた話だったわけなのですが、汚職と裏口入学の関係には込み入ったものがあります。

それ以外でも、医局と不祥事の関係や、大学附属病院と文科省の不適切なやり取りはタレコミの定番でもあり、また”象牙の塔”とも揶揄される医療界隈の教授、准教授のポストを巡る争い、研修医や勤務医に対するパワハラ・セクハラ、さらには他の派閥の医師を関連医療機関に左遷するなどの問題がどんどん表面化しているのもまた気になるところです。

先日の医療事故を隠蔽した東京女子医大事件、また群馬大学での執刀ミス隠蔽は氷山の一角で、患者の取り違えや体内にガーゼを置き忘れるといった初歩的な医療事故から特定の診療科で患者の不審死が相次ぐ現状などは、多忙すぎる医療業界が閉鎖的な体質を持ち続けてきたがゆえに、外部からのチェックがなかなか働かない好例という風にも見られます。

■果たしてそれは「裏口入学」か? 適法性グレーな私立大学の学生選抜の仕組み

今回、東京医科大学が問題となりましたが、受験生を抱える親御さん周辺でいうならば、実のところ「私立大学には必ず卒業生枠や寄付金枠がある」という噂が跋扈します。また、文系学部では特に「優待制度を持つ大学では、学力が足りなくても有力者の子弟であれば入学がフリーパスになっている」という話が出るのも事実です。

問題を紐解くと、実際にそういう『裏口入学というわけではないが、大学に入りやすいよう斡旋してくれる紳士がいる』のも事実で、昔のようにどうどうと「どこの大学はどの教授や学部長にいくら包めば入れてくれる」というほど明確な線はなくなっています。しかしながら、いわゆる「推薦」や「斡旋」は普通に存在しており、とりわけ難関とされている私立大学の医学部や、六大学私立文系学部などでは稀に「どうしても子供を入れたい親の要請」に基づいて、大学の理事会や、大学によっては設置される入学委員会(審査会などと呼ぶケースも)に働きかけができるルートがあります。大学内に設置された評議会で特定の学部の入学者を一人や二人放り込めると豪語する人は後を絶ちませんし、実際そういう人に頼んで入れてもらった事例もあるようです。

もはや「裏口入学ブローカー紛い」として今回実名報道されるかもしれない状況にあるX氏とY氏についてですが、実際に当人たちに直接話を聞くと意外な実態が浮かび上がってきます。もはや「医学部以外にお金を出して入学しようという親御さんはいなくなった」というのです。

X氏は(日本では)一流私立大学の卒業生で大学の運営に携わる外部委員を長年勤める大手輸送会社元取締役で、Y氏は同じく(日本では)一流とされる私立大学の社会人大学院で教鞭を取る現役の教授です。いずれも「有力子弟の入学を世話するために、(東京医科大学ではない別の)私立大学医学部への入学を斡旋し、実際に入学させた」経験の持ち主です。今回の文科省局長は事業認可の書類の書き方指導の見返りに子息を東京医科大学に入学させたとされていますが、X氏もY氏も「それ(入学の斡旋)そのものは違法ではなく、罪に問えないのではないかと思う」と説明します。

「そもそも『裏口入学』が悪いことだと思われて報じられる方がおかしく、私立大学では特に、建学の精神に見合った家庭や子弟を優先して入学させるのは当たり前で、単に学力が高い子を入学させる仕組みでやっている私立大学のほうが少ない」(X氏)、「むしろ東京医科大学は人気が高く、入れたくても入れられない。医学部に息子を入れたいのであれば、同じ私立のN大学やS大学を薦めている」(Y氏)と現状を結構あっさり説明してくれます。

「実際に、特定の宗教系の建学精神を持つ大学では、そういう宗教に帰依している信者を入学させることを優先するのは当然で、そのために大学を作り教えているわけですから、そこでその他宗派のご家庭の子弟が『医者になりたいから』と受験しても下駄を履くわけがない」(X氏)という言葉の裏には、少子化で大学も選抜される時代であるにもかかわらず医学部に我が子を入れたい家庭が多いため、いまなお医学部だけは狭き門であることの証左でもあります。

先日、私も『みんなの介護』で医師の需要について、厚生労働省の医師需給分科会や、医師等の働き方ビジョン検討会について触れたのですが、やはりそこであるのはブラックな職場の代名詞である医師、看護師を含めた医療業界に、今後大変な問題になるであろう超高齢化社会時代の社会保障という問題があります。つまり、一年間に子供の数が94万人を切ったいま、1万人近い医師が生まれる現状というのは「貴重な日本人の子供の100人に1人が医師になる」ことを意味し、その医師とはつまり医学部に入る人数の裏返しでもあって、そして医学部への入学者の約半数が浪人生である、という厳しい現実があります。

地方都市から医者がいなくなる!?戦略的な“無医村”づくりが進んで「急病になっても安心」という自治体はどんどん減っていくことになります

https://www.minnanokaigo.com/news/yamamoto/lesson23/

厚生労働省 医師需給分科会

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_318654.html

まさに日本の学問の頂点であり、理系たるもの医師がトップだぐらいの勢いなのですが、国立大学ではむしろ厳格な受験によって医学部の入学者が決まっているため、そういう国立医学部を目指そうにも都落ちして地方国立大学の医学部を目指す、それすらもダメで私立医学部に潜り込もうとする、という連鎖が発生し、最終的にY氏のようなブローカーみたいな有力者に入学の斡旋を頼むことになるのです。

「最近は競争が激しいのでそう簡単ではなくなりましたが、地方国立大学医学部にも高校推薦があり、その推薦で入ってきた子の医師国家試験の突破率が低かったり、医師になったあとのパフォーマンスが高くないので、結局は高校時代からしっかり勉強して受験を勝ち抜いてきた子が、ちゃんと6年で国家試験を受けて合格し、その後の医師としても能力が担保されるということが、実際には証明されているというのが現状です」(Y氏)

では、受け入れる私立大学の側はどうでしょうか。今回の東京医科大学の関係者や、別の私立大学医学部で附属病院の運営に関与する医師は、次のように説明します。「毎年、さまざまなご縁のある筋から10名ないし15名程度の、外からのご推薦をいただいたという話があります。今回、理事長がすぐに退任に追い込まれましたが、学内では公然の秘密で、リストがあることも知られていましたので、報道自体に驚きはありません」(東京医科大学関係者)、「今回、東京医科大学が可哀想だったのは、彼らだけが便宜を図ってもらってきたわけではないし、文科省有力者の子弟がたまたまその時期に入ってきていただけだということ。それをいったら、うちの大学の医学部だって『どうしてお前みたいな学力の子が医学部にいるの?』というのはいる。親の話を聞いて『なるほどね』とは思うけど、それ以上は詮索しません」(医療関係者)

「私立大学が虎の子の医学部で斡旋入学をする問題がどこにあるのか」と開き直るような発言が繰り返し出てくるのが悩ましいところですが、問題はこれらの『裏口入学』には医学部に限り”相場”があるとされる点です。今回、当局の捜査の対象となっているのはこの「不透明な”相場”によって斡旋されて入学したカネがどこに流れたのか」も含まれており、恐らくは、起訴され公判になれば全容が解明されるのではないか、とY氏は説明します。「私の知り得る限り、私立文系では10年以上前にそんな”相場”というのはなくなり、大学の入学査定でゲタを履かせることもあまり聞かなくなりました。しかし、やはり政治家の子弟であれば優先して入れたいという大学もありますし、留学先含めてアレンジしますという提案もあります」(Y氏)

親の七光りで私立大学で良い教育を受けるというのは、真面目に受験する側からすれば迷惑な話だが、「実際には高校推薦やAO入試が本当に入学後の学力の担保になっているのかがまだ良く分からないし、大学への寄付金や、大口の共同研究も仕込んでくれそうな有力者の子弟を入れたいという動きがあることに変わりはない」(Y氏)との説明通り、おそらく当局やマスコミが本当にやる気を出すのであれば、日本の私立大学医学部の入学制度の闇は明らかになるのかもしれません。

「いや、実際には医学部定員が40名だとして、だいたい38名までは真面目に受験して突破してきた学生諸君です。毎年、変な入り方をするのは1名2名じゃないでしょうか。それさえも駄目だというなら今後は”自粛”になるかもしれませんけど、この辺は本当に不都合な事実なので、リスク取って報じるメディアも少ないでしょうし、他の医学部にまで当局も戦線を広げないと思いますよ」(X氏)

ある医療関係者は、自身の子弟3人をすべて同じ大学の医学部に入学させていました。お祝いの席で一言。「いや、まだまだ僕は働かなくちゃいけないんだよ。なんてったって、一人入れてもらうのに4,000万かかったからね」

いまでこそ、医師資格は花形ですが、高齢化社会がピークを超える2042年以降は病床余り、医師余りの時代に突入します。本当にご子息に医者を目指させていいのか、という問題も含めて、この事件はちゃんと見ておく必要があるのではないかと感じます。

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