植田直通のベルギー移籍、その原点は「離婚」?背後に世界的富豪の影

ロシアW杯での戦いを終えた日本代表。各選手がチームに戻る中、植田直通はベルギーリーグへの移籍という決断を下した。

セルクル・ブルッヘ(言語によってサークル、ブルージュなどいろいろな読み方があるが)は1899年に創設された歴史あるクラブ。カトリック教系学校OBによって作られたチームで、ベルギーリーグ3回の優勝を記録している。

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ただ、頂点に立ったのは1930年が最後であり、それ以降は決して強豪チームとは言えない立場だ。

しかしながら、セルクル・ブルッヘは昨年欧州サッカーの大きな流れの中で劇的な変化を遂げることになる。

2部で戦っていた2016-17シーズン、セルクルは経営難が発覚した。予算は年270万ユーロ(およそ3.5億円)で、損失が90万ユーロ(およそ1.2億円)。まさに倒産寸前である。

ベルギーのクラブの多くは苦しい運営を余儀なくされており、この数年で様々なチームが外国人の手に渡った。

例えば指宿洋史(現ジェフ千葉)が所属していたオイペンはカタール、川島永嗣がいたリールセはエジプト、坂井大将(現アルビレックス新潟)が大分トリニータから貸し出されていたトゥビズは韓国資本だ。

ムスクロンはマルタの会社が所有しており、実質的にイスラエル人大物代理人ピニ・ザハーヴィのもの。コルトライクはマレーシアの実業家ヴィンセント・タンが持つ。

そしてセルクルもそうなった。このクラブを買ったのは、ロシア人大富豪のドミトリー・リボロフレフだった。

「金満」から育成型クラブへ、衝撃の転身

ドミトリー・リボロフレフは1966年生まれの51歳。『Forbes』の調査によれば、純資産は73億ドル(およそ8200億円)であるという。

元々は医師であったが、磁気を使った代替治療のビジネスで一財を築き、その資産を使って投資会社を設立した。

さらにその会社を販売した利益でウラルカリ(ロシアの肥料会社)を買い、世界的な企業へと成長させた人物である。

彼がサッカー界に進出したのは2011年。2部に降格していたモナコの株式66%を買い取り、多くの投資を行った。

2013年にはラダメル・ファルカオやハメス・ロドリゲス、ジョアン・モウティーニョなどを一挙獲得。この年だけで1億5000万ユーロ(およそ196.3億円)以上をつぎ込んだ。

通常そのような資金力に優れたクラブは「買う側」に回るもの。

しかしリボロフレフは2014年にその舵を大きく切る。そのきっかけは、「離婚」ではないかと言われている。

彼と元妻のエレナは袂を分かつことに決めたが、その慰謝料は当初45億ドル(およそ5050億円)以上になると伝えられた。これは離婚裁判の歴史上最も大きな額だ。

最終的にはそれよりもかなり低い数字で和解することになったが、もしリボロフレフがこれで方針を変えたとしても無理はない。モナコは多くの選手を放出し、育成機関に資金を注入。「育てて売る」クラブへと変貌を遂げていく。

その一環として買われたのがセルクル・ブルッヘだ。

ベルギーのクラブはなぜ「育成」に役立つか

モナコのディレクターを務めているフィリップス・ドーント氏は、1994~98年にセルクル・ブルッヘのCEOとして働いていた人物。

オランダ語、フランス語、英語、ドイツ語を自在に操る腕利きは、古巣の危機を救うために手を差し伸べた。

もちろん、それはモナコにも利益がある。

なぜセカンドチームが必要なのか。それはフランスリーグの制限が原因である。

若手をローンで放出して修行させるという手段は世界的に有名であるが、フランスでは年間7名が上限。また、モナコはブラジルなど南米のコネクションを持っている一方で、外国人枠の問題も発生する。

一方ベルギーはその制限が緩いため、チームの構成に大きな縛りがない。より自由に選手を送ることができる。

そして、若手の育成で結果を出してきたベルギーのメソッドを学ぶこともできる。

モナコがセルクル・ブルッヘを買うために費やしたのは450万ユーロ(およそ5.9億円)。リボロフレフにとっては、娘にケーキを買うくらいの負担だろう。

植田直通、Salvator Mundiとなれ

昨年11月、大きな話題になった一つの絵画があった。それはレオナルド・ダ・ヴィンチの『Salvator Mundi』だ。

これはレオナルド・ダ・ヴィンチの作品の中で唯一博物館に飾られていなかったもの。

その絵画を所有していたのがモナコのオーナーであるドミトリー・リボロフレフだった。

11月にクリスティーズのオークションに掛けられた『Salvator Mundi』は、UAE皇太子によっておよそ4億5000万ドル(およそ504.8億円)で落札され、美術品の歴史上最高額記録を更新した。

9月からはルーヴル・アブダビ美術館(UAE)で公開される予定となっている。

ドミトリー・リボロフレフが離婚訴訟で支払わなければならない額は、当初よりも低くなったとはいえ23億ユーロ(およそ3010億円)程度だと言われる。

その返済のためにモナコが育成重視の方針となり、セルクル・ブルッヘが買われ、そして今回植田直通が獲得された。

ドミトリー・リボロフレフが『Salvator Mundi』を画商に売りつけられた際の価格は1億2750万ドル(およそ143億円)だったという。今回の落札額はおよそ3倍だ。

植田直通がセルクル・ブルッヘで活躍し、価値が跳ね上がれば…まさに日本サッカー界の『Salvator Mundi』となるだろう。

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