⑧漏れた「聖地」 関連遺産群 どう生かす 【完】

 「10年以上前のことだが、国際記念物遺跡会議(イコモス)の専門家がここを見て、目の色が変わったそうです。これを中心に物語を組み立てればいい、と」
 長崎市下黒崎町の「枯松(かれまつ)神社」の社殿から、やや下った場所にある「祈りの岩」の前で、地元のかくれキリシタン研究者、松川隆治さん(78)が言った。
 枯松神社は、禁教期に長崎・外海地区で伝道したジワン神父を埋葬したとされる潜伏キリシタンの聖地。祈りの岩には近隣のキリシタンが集い、人目につかぬようにオラショ(祈り)を練習していたと伝わる。
 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)は、イコモスの助言で「長崎の教会群」の推薦を取り下げ、世界遺産としての価値を「潜伏キリシタンの信仰」に変更した。なのに、「聖地」の枯松神社は構成資産に入らなかった。
 関係者によると、県に助言したイコモスの外国人アドバイザーは「12資産以外にも価値ある遺産がある」として、長崎市の浦上地区など複数の場所に関心を示した。しかし、世界遺産は基本的に国の文化財であることが要件。禁教期を想起させる景観が残っていないことや、住民の同意を得るのが難しいなどの理由で、早期の文化財指定が困難なこともあり、資産への追加は見送られたという。
 潜伏キリシタン遺産は複数の資産で世界遺産価値を証明する「シリアル・ノミネーション(連続性のある遺産)」で、世界遺産登録後に資産を加える「追加登録」が可能だ。だが、県世界遺産登録推進課は「イコモスは12資産で価値を完全に証明できていると認めた。追加登録するならば、価値を組み替えなければならない」と消極的だ。
 県は、枯松神社のほかに、潜伏期の信仰形態を受け継ぐ「かくれキリシタン」が現在も信仰を続けている生月島(平戸市)の史跡を含め、県内と熊本県天草の計106カ所を「関連歴史文化遺産群」として登録。ウェブサイト「おらしょ こころ旅」で足を運んでほしい推奨スポットとして紹介している。
 だが、世界遺産の構成資産と「推奨スポット」では注目度が格段に違う。来訪者数や保護意識に雲泥の差が生じるのは必至だ。県の担当者は「世界遺産の波及効果が関連遺産にも及ぶようにしたい」と頭を悩ませる。構成資産から漏れ落ちた価値ある遺産を「地域の宝」として、どう活用し、包括的に守っていくのか。遺産の大きな宿題だ。

キリシタンが岩陰でオラショを練習していたと伝わる枯松神社下の「祈りの岩」=長崎市下黒崎町