【特集】見せ場は多い。でも大味な決勝戦 W杯、仏が2度目の優勝

サッカーW杯ロシア大会でクロアチアを破って2度目の世界一に輝き、喜びを爆発させるポグバ(左端)らフランスイレブン=15日、モスクワ(共同)

 ワールドカップ(W杯)の決勝戦を振り返ると、2006年ドイツ大会から3回連続で、延長戦までもつれ込む接戦が繰り広げられている。1点を争う戦いが演じられてきたことを考えると、ロシア大会の決勝戦はかなり大味なものとなってしまった。

 両チーム合わせて6ゴール。フランスが4点、クロアチアが2点を取り合った試合は見せ場が多く、退屈こそしなかった。しかし、ゴールの一つ一つを吟味してみると必ずしも価値の高いものばかりではなかった。

 試合を裁いたアルゼンチンのピターナ主審の判定も論議を呼ぶのではないか。前半18分に、クロアチアのオウンゴールを誘発したグリーズマンのFKも含めてだ。クロアチアMFのブロゾビッチがグリーズマンを倒したという判定だが、映像で見直せば、それはなかったと考え直すだろう。

 もちろん、このレベルの試合では判定のミスが起きることは避けられない。問題は前半28分にペリシッチの素晴らしいゴールでクロアチアが1―1の同点に追いついた後の判定だった。

 前半34分過ぎ、フランスが獲得した右サイドからのコーナーキック(CK)。グリーズマンのキックをニアサイドに飛び込んだマチュイディがヘディングでそらす。フランスの選手たちは、このプレーに対しクロアチアのペリシッチがハンドをしたとアピールしたのだ。

 ボールは間違いなくペリシッチの腕に当たっている。ボールが腕に当たったすべてのプレーをハンドの反則にするならばハンドだろう。ところが、サッカーのルールでは「故意」でない場合は反則を取らない場合もある。だから、ややこしくなるのだ。

 ここで登場したのが、今大会から採用されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。この新システムにより、判定が難しかったプレーに対して、より客観的で正確なジャッジが下されるようになった。そのことで、「ミスを犯したかもしれない」という疑念や後悔を心に抱えながら、試合を裁かなければいけなかった主審の精神的負担を和らげる効果は確実にあった。しかし、この場面に関してだけは、VARが悪い方に働いてしまったといえる。

 これまでならば、ボールが腕に当たったと判断したとしててもピターナ主審が反則を取ることはなかっただろう。なぜならば、場所が場所、ペナルティーエリアの中なのだ。ハンドと判定することは、すなわちペナルティーキック(PK)を与えることになる。このような場合、VARで画像確認することが、「故意のハンドではない」とプレーを流す判断を下すことの足かせになるのではないか。画像で、明らかにボールが腕に当たっている場面を何度も目にするわけだから。

 ピターナ主審が下したこのPK判定で、ようやく楽しくなるかという試合は台無しになってしまった。グリーズマンがこのシュートを冷静にゴール左に決めて、2―1となった瞬間、それまで素晴らしいゲーム運びを見せていたクロアチアの選手たちが明らかに落胆した様子を見せたからだ。

 ポグバ、そしてエムバペのペナルティーエリア外からのミドルシュート。ともにDFの背後を通し、GKのブラインドとなるコースを狙ったシュートは見事だった。後半14分と20分に立て続けに奪った追加点は、決勝トーナメントに入ってから3試合連続での延長戦を戦ったことによって体力を消耗しているクロアチアから、「精神的」体力まで奪った可能性は高い。

 4―1。ほぼ勝利を手中にしたフランス。たが、筆者個人としてはそのサッカーにあまり魅力を感じなかった。それはフランスのサッカーが、あまりにも「相手ありき」で、「主体性」というのを感じられなかったからだろう。スペインというよりも、バルセロナが見せる「(細かいパスワークで相手を崩す)チキタカ」好きが圧倒的に多い日本では、あまり好まれないスタイルなのではないだろうか。

 ここまで最高のプレーを見せていたGKロリスが、信じられないミスで2点目を失った。それでも4―2の勝利はスコア的には圧勝だ。ところがポゼッション率は、敗れたクロアチアが61パーセントに対して、39パーセントのフランスは圧倒されていた。

 それがフランスの戦い方だからしょうがないのだろう。しかし、優勝したにもかかわらず、7試合に先発したエースストライカーのジルーが1ゴールも挙げていないという現実がある。フランスのリアクションサッカー、つまり主役になれないサッカーを、この数字が表しているのではないだろうか。

 とはいえ、フランスが勝ち取った優勝の価値が劣るということはない。若い才能を数多く抱えたフランスは、タイトルを取ったことでさらに自信を深め、チームとして次のステージに上がっていくはずだ。

 決勝戦後、2度目のW杯優勝を決めて喜ぶフランスの選手たちを見ながら、20年前のことを思い出していた。

 ジダンの2得点などでブラジルを3―0で下し、自国開催となったW杯でフランスが初優勝を飾った1998年大会。歴史を刻んだ一戦が終わった後、筆者はパリのシャンゼリゼへ向かった。すると、世界でも最も有名な通りが、優勝に歓喜する人々であふれ返って大変な騒ぎになっていた。フランスでは、今回も同じ光景が見られたのだろう。

 不思議なものだ。W杯決勝が終わった夜には、これまで取材で訪れた数々の街の思い出が、頭に浮かんでくる。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目となる。

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