子供たちを「飢え」に追い込んだ金正恩政権の無能

北朝鮮の食料事情などを視察するため、9~12日に訪朝したマーク・ローコック国連事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、「北朝鮮はここ数年間で、国民への食糧と医療サービスの提供で多くの進歩を遂げたが、行く道はまだ遠く険しい」と語っている。

同氏はまた、2011年には北朝鮮の児童の30%が栄養失調に起因する発育不良の状態にあったが、現在ではその数値が20%に低下したものの、依然として高い水準にあると指摘した。

北朝鮮では1990年代後半、「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉が発生。10万人単位の餓死者が出たと言われる。

その後、北朝鮮の食糧事情は大きく改善した。現在も、大量餓死が懸念されるほど、国内の食糧が不足しているわけではない。その証拠に、市場での食料品の価格は比較的安定している。

ただ、この間になし崩し的な資本主義化が進行したことで、貧富の格差が拡大。いくら働いても、市場で食べ物を買うことのできない層が出現しているのである。

そのような人々は、国家の無能や失政、国際社会からの制裁の影響をもろに受ける。「苦難の行軍」が終わった後、いったん落ち着いていた食糧事情は、2009年の貨幣改革(デノミネーション)失敗により再び混乱をきたした。

また2012年には、穀倉地帯の黄海南道(ファンへナムド)で数万単位の餓死者が発生した。当局が、金正恩政権の誕生を祝う「どんちゃん騒ぎ」用の食糧を徴発したことで、極度の食糧不足に陥ったためだ。飢えた人々が家族の亡骸に手を伸ばす「人肉事件」の悲劇すら伝えられた。

現在の児童らの栄養失調にも、北朝鮮の核開発問題が影を落としている。

ローコック氏によれば、国連が今年3月、北朝鮮支援のために1億1千100万ドルが必要であると明らかにした後、4カ月間で集まった資金はその10分の1に過ぎないという。

金正恩党委員長が推進した核兵器開発は、抽象的な意味ではなく、具体的な形で国民の生活にダメージを与えている。そのような犠牲の上でなした米朝首脳会談は、決して「偉業」として歴史に記録されるべきではなかろう。

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