北朝鮮が明かした「美人ウェイトレス誘拐」の生々しい場面

2016年に中国の北朝鮮レストラン従業員らが韓国に集団亡命した事件を巡り、韓国政府がピンチを迎えつつある。

核開発を巡って国際社会の経済制裁が強められるまで、北朝鮮の外貨稼ぎの柱のひとつだった北朝鮮レストランは、ときにアイドル並みの容姿を誇る美人ウェイトレスも配置され、日本人や韓国人の間でも人気だった。それだけに、集団亡命が発生した際には世間の大きな関心を集めた。

ところが最近になり、これが韓国の情報機関・国家情報院(国情院)が仕組んだものであり、女性従業員の中には行き先が韓国であることを知らなかった人がいたとする事実が鮮明になりつつある。

当時のレストラン支配人で、女性従業員12人を引き連れて韓国入りしたホ・ガンイル氏は15日、聯合ニュースとのインタビューで、「(国情院が)東南アジアにレストランをオープンさせてやるから、従業員と共に脱北するよう勧めた」と証言。決めきれずにいると、「これまで国情院に協力した事実を北側に暴露する。脱北せよ」と脅迫されたと明らかにした。

ホ氏によると、女性従業員12人のほとんどは東南アジアのレストランで働くと思い、付いてきたという。ホ氏は集団脱北に国情院が介入したと主張してきたが、具体的な内容をメディアに明かすのは初めてだ。

これが事実なら、韓国政府が北朝鮮側からの女性従業員らの送還要求を跳ね付けるのは難しくなる。脱北者を強制的に帰国させるオペレーションに力を入れてきた北朝鮮当局は、「敵失」により思わぬ成果を上げることになるわけだ。

実は、ホ氏が聯合に語った内容は、2016年5月に北朝鮮側が脱北した従業員の同僚らの記者会見を通じて発表していた内容とも一致する。朝鮮中央通信が報じた「誘拐場面」の描写は、たとえば次のような具合で、なかなかに生々しいものだ。

「4月5日、ある人々が食堂後門の方にバスを止めて、新たに運営する食堂へ移動サービスに行かなければならないと言って従業員を乗せた。(中略)事が尋常でないということに気付いたチェ・レヨンさんがまだバスに乗っていない友だちに逃げろと言ったので、数人だけが急いで正門の方から抜けて食堂を離れた」

北朝鮮当局は昨年6月、韓国が集団脱北した女性従業員らを送還しなければ、南北離散家族の再会事業に応じない方針を示した。最近の南北対話では、女性従業員らを送還しないまま、8月に離散家族の再会を実現させることが決まっている。とはいえ、北朝鮮側は従来の主張を引っ込めたわけでもない。

現在の状況を受けて、北朝鮮側が文在寅政権への揺さぶりを強めるのは間違いないだろう。

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