【世界から】大企業を中心に広がるCSRとは

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 コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(Corporate Social Responsibility、以下CSR)。日本語では「企業の社会的責任」と訳されている、この言葉を聞いたことがあるだろうか。

 世界中の大企業を中心に積極的に行われている活動で、組織の力を生かして、環境保全や健康的で幸福な社会を目指す「ソーシャル・ウェルビーイング」のために何が必要とされているのか自主的に判断し、イニシアチブをとって行動することを指す。

 大企業で働いてもいない限り、普段の生活で頻繁に聞く言葉でもないが、先日CSRが実際の生活で身近に存在していると感じるできごとがあった。

▼無料の英会話授業

 ニューヨーク中心街、マンハッタンの42丁目にあるニューヨーク公共図書館の本館では、移民を対象に英会話クラスが週2回定期開催されている。何と参加費は無料。合法滞在者かどうかの書類審査もなく、事前登録もいっさい不要だ。南米出身の友人によると、つい最近南米の国民的女性歌手もお忍びでこのクラスに参加し、彼女のことを知る参加者を驚かせたそうだ。

 誰をも歓迎するクラスとはどういうものなのか。興味がわいたので、ある日友人とともに受けてみることにした。ニューヨークの公共の場ではお決まりの荷物検査を済ませた後に、受付で出身国と名前だけを告げて、クラスが実施される部屋へ入った。

 部屋には、すでに60人を超える参加者がいた。6人ほどが車座になってグループを作っていたので、およそ10あるグループの中で席が空いているところに加わった。自己紹介を終えると、お互いの出身地や気になることについてひたすら話しまくる。会話の取っかかりにしようと、グループに一人いる先生に普段はどんな職業に就いているのかを尋ねてみた。彼女は、世界最大手の金融機関で勤務していると教えてくれた。そして、この日は、同じく会社から派遣された同僚らとともに、ボランティアとして教えているのだという。

 クラスでは、いろんな国出身の人々と交流を深めることができた。彼女は最後までCSRという言葉を口にすることはなかったが、私はその話しぶりからCSRの一貫なのだと納得した。

▼人形の綿詰め作業も

 世界中の子どもをつなげる活動をアメリカと日本でしている日本人女性がいる。彼女の名は寺尾のぞみさん。「ミステリオ」という団体を立ち上げて、各国の子どもたちが国際交流するサマーキャンプを日本で開催するほか、手作りの人形を世界中の子どもに届けるプロジェクトを主宰している。

 寺尾さんは2011年以降、累計1万6000体の手作り人形を届けてきた。膨大な数の人形をどのように作っているのかと聞けば、生地の裁断などはニューヨークの中小企業に格安で依頼し、綿詰めの段階でこのCSRを利用していると言う。

綿詰めの作業が終わったばかりの人形を手にする寺尾のぞみさん(手前)=安部かすみ撮影

 CSRの一環としてミステリオの人形作りに参加しているのは、世界的に有名な投資系大企業だ。この企業では、毎年6月を「グーローバルボランテイア」の月に決め、本社に加え世界中にある支社に在籍している全ての社員がCSRに参加する強化月間にしている。ゴミ拾いやホームレスシェルターへの食事デリバリーなどさまざまなプログラムが用意されており、社員は興味があるものを選べる。中でも、ミステリオの人形作りは社内のビル内で気軽に参加できるため、特に人気なのだとか。

 6月のある日、その様子を見に行ってきた。午前と午後に2セッションで実施されたセッションに参加したのはそれぞれ40人で、いずれも超がつくほどのエリートばかり。与えられた人形の綿詰め作業を始めると、慣れないためか最初こそガヤガヤと騒がしい。しかし、時間がたって綿詰め作業に集中していくにつれて静かになっていった。その様子からはどの人も真剣に取り組んでいる様子をうかがえた。

とある投資系企業で行われたCSRの様子。「ミステリオ」が世界中の子どもたちに贈る手作り人形に綿を詰める作業をしていた=安部かすみ撮影
綿詰めされた人形は別のボランティアによって絵が描かれ、世界中の子どもたちに届けられる=安部かすみ撮影

 寺尾さんによると、彼らにとっては慣れない作業なので、一から指導したり、間違った作業を修正したりも相当大変だそうだが、それでも1日のセッションで合計150体以上が完成する。「強化月間」だったという6月は、ほぼ毎日これの繰り返しだ。「皆真剣に取り組んでくれている上に、この投資企業からはグラント(助成金)もいただいている。とてもありがたいことです」と、CSRの取り組みについて語った。

▼中小企業を中心とした意識改革

 日本でも大企業を中心に、近年CSRを実施している企業が増えている。一般的にCSRは、企業収益を出した後の活動のみを指すものと誤解されていることがまだ多い。

 CSRを実行することにより、企業側にとっては出費こそあれ、利益が出るわけではない。だから、利益幅が小さな中小企業ではCSRの取り組みはあまり進んでいないのが現実だ。しかし、利益とは会社の行っている事業や経営の仕方が正しければきちんと出てくる結果だろうし、利益を上げることだけを求めて会社を経営するべきではないだろう。

 中小企業の意識の変化にはもう少し時間がかかりそうだ。(ニューヨーク在住ジャーナリスト、安部かすみ=共同通信特約)