アストンマーティン 新型ヴァンテージ試乗|アストン史上最強ロードカーの実力とは?

アストンマーティン 新型ヴァンテージ

DB11はGTカー、ヴァンテージはスポーツカー

アストンマーティンがアンディ・パーマー体制になってからの最初のブランニューとなったDB11は、初めてステアリングを握ったときから素晴らしかった。後に追加されたV8ユニット搭載のDB11 V8も、ドロップヘッド・クーペともいうべきDB11ヴォランテも、やっぱり素晴らしかった

だからこそ新体制になってからのブランニュー第2弾である新型ヴァンテージにも早く乗ってみたくて仕方なかったのだけど、ようやく叶った。

ボスであるパーマーさんも、そして副社長にして造形部門のトップでもあるマレック・ライヒマンさんも、常に「DB11はGTカー、ヴァンテージはスポーツカー」とクチを揃えていた。

そこには「旧型ヴァンテージとDB9の違い以上に、異なるキャラクターを持たせるからね」という含みが、間違いなく込められていた。

獰猛な野性を感じさせる新型ヴァンテージ

アストンマーティン 新型ヴァンテージ

確かに新しいヴァンテージのスタイリングは、アストンマーティンの方程式からは全く外れてはいないのに、DB11とは似ていない。少なくとも向こうから走ってくるのを遠目に見て、V8ヴァンテージ?DB9?と瞬間的に迷ったりした頃とは話が違う。

穏やかでスマートな印象のDB11に対して、均整のとれた新型ヴァンテージの肢体の中にどこか獰猛な野性を感じさせる印象がある。

けれど、ホイールベースが101mm短かったり、車重が同じエンジンを積むDB11 V8より120kg以上軽かったりはするものの、ヴァンテージはDB11とほぼ同じアルミ接着工法による車体構成を持ち、DB11 V8とほとんど同じAMG由来の4リッターV8ツインターボを積んでいる。DB11 V8だって“あくまでもGTカー”といいながら、先代のV8ヴァンテージと張り合えるぐらいの運動性能を披露してくれたりもした。

新型ヴァンテージは一体どんなふうにDB11と違っていて、どんなふうにドライバーを楽しませてくれるのか。興味が湧かないわけがない。

低いドライビングポジションと引き締まった足腰

アストンマーティン 新型ヴァンテージ

あれ?だいぶ違うかも……という予感は、ドライバーズシートに腰を降ろした瞬間に湧いてきた。

スポーツモデルに試乗するときの常として、僕には最初にシートを最も低くセットしてみる習慣がある。着座位置の低さとそれに伴う足を投げ出すようなドライビングポジションは、それそのものがスポーティな感覚を呼び覚ますようなところがあるからだ。

新型ヴァンテージのそれは、かなり低い。ケータハムほどではないにしても、路面のすぐ上を滑走しているかのような感覚がある。

V8ユニットのサウンドはDB11 V8より少しダイレクトにドライバーに伝わってきて、3000rpmも回すと車内はわりと賑やかだ。ロードノイズも、DB11より大きく感じられる。車重の軽さを確保するためか、あるいは雰囲気づくりのためか、遮音系を少し省いているのかも知れない。

ライドフィールも、これまで走らせたことのあるアストンマーティン達と較べると、結構ハードな感じだ。基本的な乗り心地としてはほどほどに良好だし、少しも粗いわけじゃなくて引き締まっているだけなのだけど、路面のギャップや大きなうねりを乗り越えるときにはそれを拾ってキッチリとドライバーに伝えてくる。

新型ヴァンテージの乗り味は、エレガントなDB11とはベクトルが違う

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御存知の方も多いことだろうけど、DB11以降のアストンマーティンは、エンジンのトルク特性やミッションの変速スピードなどのパワートレーン系とアダプティブダンピングシステムの減衰などのシャシー系を、それぞれ別々にチョイスできるようになっている。

新型ヴァンテージは “スポーツ”“スポーツプラス”“トラック”の3段階で、最もソフトなのが“スポーツ”だ。そのシャシー系のモードを“スポーツ”のままで走り出してすぐにDB11との違いを感じたし、首都高速で“トラック”を選んで少し元気よく走ってみると継ぎ目で跳ねたかと思ったこともあったぐらい。

僕なんかはそういう動きを単純に楽しんじゃうようなところがあるから少しも苦じゃないけれど、同乗者がいるときには“スポーツ”に固定しておとなしく走るのがいいだろうな、と感じたのも確かだ。

いずれにしてもヴァンテージは、DB11のエレガントな乗り味とはベクトルが少々違っている。足腰はかなり筋肉質に仕立て上げられていると考えていい。

あらゆる局面で速さをモノにしやすいフラットで強大なトルク

アストンマーティン 新型ヴァンテージ
アストンマーティン 新型ヴァンテージ

AMG由来の4リッターV8ツインターボは、アクセルを深く踏み込んで行くと相当に速い。静止状態から0-62mph(およそ100km/h)までの加速タイムは3.7秒。これはDB11の発展版であり、パワーで129ps上回る639psのV12ツインターボを積んだDB11 AMRと──車重の違いも大きいが──全く同じ数値なのだから、それもそのはず。

回転が高まっていくに連れて歯切れよく弾けていく、AMG GTなどとは音色の異なる角が少しまろやかなアストンらしいサウンドにそこはかとない安心感を感じながら、そのときのスムーズで素早い速度の伸びを味わうのは、かなり楽しい体験である。

高回転になればなるほどサウンドの歯切れがよくなって快感指数も高まるから、最初は高回転を好むタイプかと錯覚しがちだが、実はこのエンジンの基本的な性格はフラットなタイプ。

低い回転領域から強力なトルクを放出し、パワーも直線的に伸びていく感じだから、どこからアクセルを踏んでも俊敏で獰猛な加速を味わわせてくれる。そういうエンジンこそがあらゆる局面で速さをモノにしやすいことは、もちろんいうまでもない。

ギュッと締まった足腰と強力なパワーユニットのコンビネーション。それをワインディングロードに持ち込んで楽しくないはずがない。新型ヴァンテージの真の姿は、この辺りから露わになりはじめてくる。

アストンマーティン 新型ヴァンテージ

頭で想い描いたイメージのとおりに曲がってくれる

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おっ、曲がる!すっごく曲がる!と、いきなり嬉しくなった。もしかしたら僕は破顔してたかも知れない。

シャシー系を“スポーツ”にしたままでも、ヴァンテージはコーナーごとにすっきりした感覚をドライバーに伝えながら、すんなりと素直に曲がってくれる。

“スポーツプラス”に切り替えると、長いノーズはさらに気持ちよくインに入っていく。ドライバーの意志に対するクルマの反応はほどよくシャープにして正確。頭で想い描いたイメージのとおりに曲がってくれる印象だ。

ブレーキを残しながらコーナーに侵入していくと、フロントがスッとコーナーの内側を向き、ほぼ同時にリアが適切に反応してしっかり踏ん張りを効かせながら追従してくれるから、狙ったとおりのラインに乗せていきやすい。

立ち上がりに向けてアクセルペダルを合わせていくと、アンダーステアって何?ぐらいの勢いで進んでいきたい方向へと加速していく。ニュートラルステアというのは、こういうことをいうのだ。

試しに少しオーバースピード気味に侵入してみたり立ち上がりでわざとアクセルペダルを余分に踏み込んてみたりもしてみたが、電子制御が巧みに介入してくれるおかげで、リアが裏切って瞬時にズバーッと逃げていくような怖さを感じるということもない。

どんな状況でも操作に対する反応が正確でコントロールしやすい

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ならばと調子にのって、路面の悪くない場所で“トラック”に入れてみる。するとおもしろいことに、実際にはあり得ないのだけどまるでホイールベースが短くなったかのような印象で、クルマが回り込んでいくときの動きがより素早くシャープになる。

少し頑張って攻め込んでみると、リアは相当なところまで踏ん張りを見せ、臨界点を超えると最初はジワッと、そしてそこから少しずつグリップを手放していくかのようにスライドを見せる。

もちろん行き過ぎそうになったときには電子制御がいい仕事をしてくれるのだろう、不自然さを感じることもなく動きを抑えられるのだけど、それよりもあらゆる状況下において4輪がどんな状況にあるのかをクルマがハッキリと伝えてきてくれて、なおかつアクセルペダルやステアリングの操作に対する反応が素早く正確というヴァンテージの基本的な持ち味が味方してくれるからコントロールしやすい。

素早く正確なハンドリングと絶妙な電子デバイス

アストンマーティン 新型ヴァンテージ

新型ヴァンテージにはブレーキの内側をつまむトルクベクタリングや瞬間的にオープンから100%ロックまでをシームレスに切り替えてくれるEデフなどの電子デバイスが備わっていて、それらが連携しながら巧みにクルマの動きを制御してくれるのだけど、それらはいつから働きはじめていつ解除されたのかが判らないくらいに自然。“乗せられてる”感のようなものがない。

ステアリングを切るとフロントタイヤが内側に向くし、ブレーキを踏めばノーズが沈んで重心が前寄りになるし……と、当たり前の動きをするのと同列で、そこまで含めてハンドリングの一環だという明確な思想のもと、全てがドライバーの操作に巧みに反応するよう作られているからなのかも知れない。そこまで含めてドライビングプレジャーというものがデザインされているのかも知れない。だから、ただひたすら曲がることが楽しいのだ。

新型ヴァンテージは車と対峙するリアルスポーツカー

アストンマーティン 新型ヴァンテージ
アストンマーティン 新型ヴァンテージ

今回は街中と高速道路、そしてワインディングロードという試乗だったが、とてもヴァンテージのテイストを100%堪能できた気は、実は全くしていない。ここから先に、もっともっとリアルな真の姿があるように思えてならないのだ。そのくらい高いポテンシャルを秘めていそうな感覚が、常にあった。だから今、このクルマをクローズドコースに持ち込んで走らせてみたくて仕方ない。

それでもハッキリと解ったことがある。それはスポーツドライビングというものを純粋に楽しみたいアストン・ファンにとって、新型ヴァンテージはアストンのロードカー史上最強といえる存在である、ということ。

確かにDB11は、かなり高いレベルでスポーツできるグランツーリスモ、である。対するこのヴァンテージは、その気になればグランドツーリングもこなせそうだけど、間違いなくドライバーがクルマや自分自身と真摯に対峙するためのリアルなスポーツカー、だ。きっちりと性格分けがなされている。そして、そのどちらもたっぷりと魅力的なのだ。

走ることが好きなカー・ガイが作るクルマが退屈な車になることはない

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そういえば今年のル・マン24時間レースの前座イベントとして、AMRフェスティヴァル・レースというアストンのみのレースが開催されていて、パーマーさんもライヒマンさんも、自らステアリングを握ってレースを戦い、楽しんでいた。彼らは優れた経営者でありデザイナーであるわけだが、同時に走ることが大好きなカー・ガイでもあるのだ。

そういう人達が先陣を切って作ってるのだから、生まれてくるクルマ達が退屈な高級車に成り果てることなんてあり得ないのだな、と思うのだ。

[Text:嶋田 智之 Photo:オートックワン編集部]

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