追想の夏

 当時の長崎市営大橋球場が「沸きに沸いた」と本紙にある。1981(昭和56)年7月28日、全国高校野球選手権の長崎大会決勝で、長崎東と長崎西が激突した。私事にわたって恐縮だが、この「東西決戦」でスタンドから応援したのは、地味な高校生活の中でも忘れがたい出来事だったと、今にして思う▲うおーっ、と試合中、確かに沸きに沸いたのを覚えている。きっと同点の7回裏、長崎西が決勝点を挙げた瞬間だったんだろうな。37年前の紙面をめくりながら、遠い夏の追想に誘われる▲と、そんな筆者の思い出はささやかなもので、高校時代の大半を野球にささげた人、支えた人には高校野球の「100回目の夏」となる今大会、胸に広がる思いがあるに違いない▲球児を見詰め続けてきたファンもいる。先日の本紙に、20年近く球場に通う長崎市の近藤正則さん(70)の話があった。日陰ではなく、炎天下のバックネット裏に陣取るらしい。球筋が分かるから、と▲「海星のサッシー(酒井圭一投手)やろ」「佐世保工の香田(勲男投手)も良かった」と仲間内で本県球史の話が弾むという。語り出すと止まらない人は、熱烈なファンならずとも数知れまい▲今大会は今日からベスト8の対戦となる。願わくば100回目もまた、記憶に残り、語り継がれる夏であれ。(徹)

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