政治と向き合う若者の79日間 映画「乱世備忘 僕らの雨傘運動」公開

 香港の若者らが、民主主義を求めて立ち上がった雨傘運動。79日間に及ぶデモの様子を追ったドキュメンタリー映画「乱世備忘 僕らの雨傘運動」が14日、公開される。陳梓桓(チャンジーウン)監督(31)は「政治と向き合う若者たちがいることを、多くの人に伝えたい」と語る。

 街におびただしい数のテントが張られ、人々が通りを占拠する。カメラには、台湾警察と市民が衝突する最前線の状況など、デモの様子がありありと映る。

 「デモに参加して、現場で多くの人が捕まる姿を見てショックを受けたのがカメラを回したきっかけです」

 大学では政治学を学び、社会運動には興味があった。新聞やインターネットでデモの情報を得ていたが、実際に参加してみると、目の前で繰り広げられる暴力的な光景に言葉を失った。

 「撮影していれば警察官が暴力を振るわず、デモに参加する市民を守れると思いました」

 自身も仕事の合間にデモに参加し、現場で知り合った同世代の若者らの姿を追った。香港大で法律や英語を学ぶ大学生、仕事を終えてデモに来る青年、クラスメートと運動に参加する中学生。主要メディアが追う運動の学生リーダーたちではなく「自由が欲しいだけ」と話す、ごく普通の若者らを撮り続けた。

 一方で、若者らの行動に理解を示さない人々もいる。「道をふさいで迷惑」「家に帰りなさい」と諭す大人たちだ。

 「僕の父も公務員だったので考え方が保守的で、運動の理解は得られなかった」と陳。編集の際、返還年の1997年のホームビデオの映像を使い、自分の生い立ちに合わせて香港の歴史をナレーションで吹き込んだ。

 「父は、香港の過渡期にあの映像を撮ったので、おそらくいろいろなことを考えていたと思う。その時の子どもたちが、今は街に出て運動をしている。どうしてなのかを上の世代の人たちに考えてほしいと、映像を使いました」

 日本でも学生団体「SEALDs(シールズ)」が結成され、台湾でもひまわり学生運動が起こるなど、アジア各国で、若者が政治に関わり始めている。

 「民主主義は当たり前にあるものではなく、社会への参加を通して築くものです。この映画を見て、香港の若者たちが政治に対してどういうふうに参加しているのか知って感動してほしい。そして、自分たちの地域で政治にどう参加していくのか、考えるきっかけになればうれしいです」

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