「集計の機械が、投票用紙を書き換えている」ネットで噂される「開票 陰謀論」はあり得るのか?メーカーに聞いてみた

投票が終了すると、各市区町村の体育館などを開票所として行われる開票業務。その一画で機械が投票用紙を分類したり、数えたりしている様子を新聞やテレビを通して見たことがある方も多いのではないでしょうか。

ときに「特定の候補者の票を水増ししてカウントしている」「鉛筆で書かれた文字を自動で消して、違う候補の名前に書き換えている」などとのウワサがネットで飛び交う開票業務で使われる機械ですが、果たしてそんなことは可能なのでしょうか? 投票用紙の計数機などでトップシェアを誇る「株式会社ムサシ」に聞いてみました。
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「投票用紙交付機」と選挙管理システムで厳格に投票用紙を管理

-選挙ウォッチャー 宮原ジェフリー(以下、選挙ウォッチャー 宮原)
今日はよろしくお願いします。株式会社ムサシでは、「投票用紙に書かれた名前を自動で識別する機械」や「投票用紙を数える機械」など、投票所や開票所で使われている様々な機械を作られていると聞いています。まずムサシがどのような機械を作っているか教えてください。

投票所で整理券を渡すと、係員が確認したあとに機械から出てきた投票用紙が渡されますよね。ムサシは選挙関係の機械はほとんど全て開発しているとのことですが、こういった機械もムサシの製品ですか?

投票用紙交付機。 株式会社ムサシWebサイトより

-株式会社ムサシ広報室 ご担当者(以下、ムサシ 広報ご担当者)
「投票用紙交付機」ですね。もちろんこれもムサシで作っています。

-選挙ウォッチャー 宮原
投票用紙を渡すだけですから、別に機械を使わずに人の手で1枚ずつ配っても良さそうですが、どうして機械化しているんですか?

-ムサシ 広報ご担当者
投票用紙は新しい紙ですので、ピッタリ重なって複数枚渡してしまうことのないように機械を使っています。
選挙業務にあたって選挙管理委員会の方々は、「投票用紙が投票所に何枚用意されて、来場した有権者の数だけ交付して、何枚残ったか」ということを不正のないようにきっちりと記録に残して厳格に管理されているんです。ですので、例えば人の手で1枚1枚渡すと誤って2枚渡してしまう可能性がありますから、機械でしっかりと配布した枚数を管理できるようにしているんです。

また、投票用紙を受け取る際に「衆議院 小選挙区です」と言ったように機械音声で何の投票用紙か案内するようになっているので、混同するリスクも少なくなります。衆院選があると、小選挙区、比例代表、最高裁判所裁判官国民審査と最低でも3枚の投票用紙、それに地方議会議員選挙などが重なるとさらに投票用紙が増えますので、こうした細かな配慮も重要です。

株式会社ムサシ広報室 ご担当者

心がけているのは、票の流れの徹底した「見える化」

-選挙ウォッチャー 宮原
投票が終わった投票用紙は開票日に開票所に集められますが、投票箱から取り出された票が最初に通る機械がこちらのいちばん大きな機械ですね。

-ムサシ 広報ご担当者
「投票用紙読取分類機」と言います。投票用紙に書かれた候補者の名前を高速で読み取り、分類する機械です。実際に動くところをご覧ください。

候補者の「漢字」はもちろん、有権者の方によっては「カタカナ」や「ひらがな」、「漢字とひらがなの組み合わせ」等で書かれる方もいますので、様々な表記を事前に設定しておきます。投票用紙の「裏表」や「上下」がバラバラでも自動的にそろえることもできます。

赤で示した箇所が投票用紙の向きを自動で変える「天地表裏反転ユニット」。 ここで票の上下・表裏をそろえる

この機械は2代目で、初代の機械では「表裏」や「上下」を揃えることはできませんでした。処理速度も初代の機械は分速480票でしたが、現在は660票処理できます。

-選挙ウォッチャー 宮原
開票業務を行っている方の声を取り入れながら少しずつ改良を続けているんですね。

-ムサシ 広報ご担当者
また、開票業務に使う機械はすべて「票が機械の中に隠れず、外から票の流れが見える」ように配慮しています。投票用紙が機械の中に入っていって、どのように揃えられ、分類されているかが外から見えませんと、例えば「途中で投票用紙が詰まってしまわないか(投票用紙が行方不明にならないか)」や、それこそ「何か怪しい仕組みがあるんじゃないか」などとも思われかねません。

「投票用紙の通り道」を係員の方がご自身の目で簡単に確認できるような設計になっているんですよ。

投票用紙が通る箇所は簡単に開けて点検できるようになっている

-選挙ウォッチャー 宮原
見えないところで処理しているような印象を与えないように配慮がなされているんですね。

投票用紙の枚数を数える計数機も「投票用紙の通り道」が全て外から目視できるようになっており、一瞬たりとも投票用紙が見えなくならないように設計されている

徹底した効率化が公正・公平な選挙を支えている

-ムサシ 広報ご担当者
よく読取分類機についているモニターに候補者の票数が出ているのではないか、と開票速報を急ぐマスメディアの方から質問されるのですが、分類機ではあくまで分類のみで数えません。モニターは機械にエラーが起きた場合にその箇所を示すためのものです。

機械で分類された票は、次に人間の目によって間違い等がないか再確認します。そして、候補者別の正しい票であることを確定した後に、計数機で枚数を数えます。これは公職選挙法に定められた流れに準拠しているんです。また、票数の確認については「2人の目」で確認するように公職選挙法で定められているので、それを機械に置き換えて「別の計数機2台」に通して正確な枚数を確認しながら、100票の束をつくります。さらに、「100票の束」を誤って2回数えたりしないように、束ごとにバーコードが印刷された付票を付けて管理します。

このように、開票作業ではムサシの機械で効率化しながらも、公職選挙法にしっかりと準拠し、確実に人の目によって再確認する流れとなっています。万が一、ムサシの機械にエラーがあったとしても、開票作業を行っている方や開票立会人によってチェックされます。

計数機の内部も透明のプラスチックが使用されており、投票用紙が見えなくなることがない

-選挙ウォッチャー 宮原
開票業務は午後8時以降から作業を始め、長い場合は深夜に及ぶこともあります。また、開票作業にあたる職員の方々は、普段は選挙以外の業務を担当している方がほとんどです。ムサシの機械による作業の単純化や効率化によって、ヒューマンエラーをなくす工夫がなされ、正確で迅速な開票を支えているんですね。

公職選挙法に準拠した基準や、「不正」や「ミス」がないように「機械の動きは外から全て目視できる」といった設計。さらにはどの機械もスイッチが少なく、初めて目にする人でも直感的に操作できるのも配慮を感じます。ネットでまことしやかに囁かれている「ムサシの機械が投票用紙を自動で書き換え、日本の政治を操っている」という「ムサシ陰謀論」はあり得ないことがわかりました

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