おあつらえ向き

 昨今あまり使われないが、自分の思う通りに何かを作ること、注文して作らせることを「あつらえる」と言う。晴れ着をあつらえる、などと用いる▲選挙制度をあつらえた、と言ってもおかしくあるまい。参院の定数を6増やす改正公選法が成立した。選挙区では二つの合区を維持し、比例代表に「特定枠」を設ける-というのだが、どうにも分かりづらい。ただ、自民党お手盛りの法改正だということはよく分かる▲自民は「鳥取・島根」「徳島・高知」の2合区に、来夏の参院選で改選される現職4人を抱えている。出馬できるのは2人。あぶれた2人を、優先的に当選できる「特定枠」に収めて救う。そういう算段らしい▲自民に都合のいい定数増だと言われても仕方がない。人口は減っているのに。多くの地方議会は定数削減に努めてきたというのに▲安倍晋三首相はかつて、選挙制度を民主主義の「土俵」と言い、数多くの政党が議論に参加すべきとも言った。なのに議論不在に終わったこの法改正をめぐっては、自民執行部の我田引水のやり方を黙認したとされる▲首相が言うように、選挙制度は民主主義の土俵であり、根幹のはずである。巨大政党のおあつらえ向きに土俵の形が変えられたとすれば、民主主義はずいぶん軽く見られ、軽く扱われたことになる。(徹)

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