大雨情報で早期避難ってほんとにできる?早期避難のためのアイデア12選(前編) 住所入力すれば危険をカルテにしてくれるサイトも!

(出典:雲研究者.気象庁気象研究所研究官の荒木健太郎さん『雲を愛する技術』(光文社新書))

平成30年7月豪雨では、多数の場所で多数の方が命を落とされました。ご冥福をお祈りいたしますという言葉が軽く感じられるほどの大災害で、言葉を失います。ご遺族の方はどれほど辛い思いをされていることでしょう。お気持ちに寄り添いたいと思います。

そして、災害のフェーズはどんどん移り変わります。そんな中、どうすれば早期避難できたのかという話題は、緊急の情報ではなくなっていきます。それでも今回は、早期避難について書かせてください。

毎回、もっと早く避難できないか、どうすればよかったのか、一瞬は議論されます。でも、今困っている話題が報道の中心になり、避難のことは忘れられていきます。災害の度にそうなります。

でも、腑に落ちるところまで自分の結論をだしている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?もう悲劇は繰り返したくありません。いくつか、いままで実施しているアイデアを紹介します。乳幼児をもつご家庭向けには効果を感じています。でも、最も難しいのは高齢者の避難です。それについてはまだ議論が必要です。

みなさまと一緒に深く考えていただきたいので、おつきあいください。

アイデア1「気象関係の情報を発信する人をフォローする」

2018年7月5日は三重県桑名市で、6日は大阪北部地震の被災地である枚方で、というのが私の講演予定日でした。7月4日に気象庁は、こちらの情報をだしていました。

(JVIR - 気象庁防災情報)https://tenki.svir.jp/kisyo/JPTK/180075.html#xKpYRGk2oqCuxASGmmR9

気象庁が、7月4日の段階で8日まで大雨が続くなんて予報を出すなんて、今まで見たことなかったのでびびりました。数日間、同じような地域で大雨というのも怖い情報です。

また、のちに詳しく紹介させていただく雲研究者・気象庁気象研究所研究官の荒木健太郎さんも7月4日の段階で、このような情報を発信しておられました。

荒木健太郎さん 雲研究者、気象庁気象研究所研究官。防災・減災を目指して、豪雨・豪雪・竜巻などをもたらす雲の仕組みを研究している。著書に『せきらんうんのいっしょう』(ジャムハウス)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)など。
Twitter:@arakencloud,Facebook:kentaro.araki.meteor

「非常時持ち出し袋」や「避難場所」の話題まで出ています。今までにない災害が起こりそうな、ざわざわとした情報は4日に出ていました。そのため、7月5日の9時32分に、7月6日の枚方市の講演の主催者の方に中止の検討についてメールしました。

6日は大阪北部地震後、被災地の子育て世代の方がすぐに連絡をくださって、何をどう備えたらいいか知りたいと、急遽、講演が決まった日程です。それを中止(延期)にするのは心苦しかったです。でも、過去の記事でも書きましたが、自然を相手にする時は、主観的な事情は判断要因に入れない事にするのがアウトドア流です。

■山の遭難で最も多い「道迷い」。親子で知ってほしい「山で迷ったときの鉄則」とは?歩きやすそうでも沢に降りちゃ絶対ダメ!
http://www.risktaisaku.com/articles/-/6088

天候情報と、地震の被災地ゆえに地盤が緩くなっていること、さらに雨の移動で危険が伴う乳幼児連れの講座であることを考えると、答えは中止以外ありませんでした。

5日は他にもこんな情報が流れていました。気象庁が14時に異例といえる記者会見をしたのです。

気象庁ホームページから

いつも気象庁会見を追いかけてますが、台風や大雪以外の現象で、事後の会見ではなく事前の会見って今までにありましたっけ?しかも、「非常に激しい雨が断続的に降り続き、記録的な大雨となる」とあります。

ウェザーニュースでも5日は「週末にかけて歴史的大雨の恐れ 多発的な土砂災害・河川氾濫に警戒」として、「歴史的大雨」という言葉が使われました。

https://weathernews.jp/s/topics/201807/050105/?fm=tp_index

荒木健太郎さんの5日のTwitterでの発信も前日より切迫しています。

「今回の大雨はいつもと違うと考えて下さい.」「広範囲で大雨になります.」「避難情報等を必ず確認して下さい.命が一番大事です.」という言葉が並んでいます。

5日の段階で、わたしの気持ちはざわざわです。講演が終わり、6日を中止にしたのでそのまま東京に戻ることにしたのですが、東京の空は快晴で、大雨の話はニュースにでてくる程度。地震のような特別報道はありませんでした。

そのため、ウェザーニュースのYouTube配信ライブニュースをずっと見ていました。常時放送しているお天気情報として、これは貴重な情報源でした。この時、中国地方の河川の氾濫の怖れについても報道されていました。

大雨情報・週末にかけて歴史的大雨の恐れ/ 2018.7.5 21:00 ウェザーニュース(出典:Youtube)

そんなわけで、切迫した状況を5日から感じることができたのは、信頼できる気象情報を発信する方をフォローしていたり、お天気情報サイトを常時見ることができる環境だったからです。これは、早期に危険を察知するために大切だと思っています。まわりの人がのんびりしていても、気象に詳しい人たちが同じ情報を発信していたら、ただ事ではないかもと思えますよね。

アイデア2「高齢者にスマホプレゼント」

高齢者は、そんな情報を見ることができないという声ももちろんお聴きます。その反面、最近は、スマホをちゃんと使いこなしている高齢者の方にも多くお会いしています。文字が大きくできたり、ラジオも聞ける、音声認識こそ高齢者むけ!などと、使ってみたら楽しかったという方も。

ご家族が設定してあげる、お天気番組を登録しておいてあげる、自分が受信してせっせと知らせるなど、まわりが無理だと決めつけずに、使っていただけるように働きかけてみることも大事かもしれません。

毎回、災害時に高齢者に情報が届かない問題が出てくるのですが、解決方法まで議論されないのです。まずは、この夏の帰省の際にも、スマホを設定するミッションを実施ということでいかがでしょうか?常時居場所を知らせてくれるアプリもあるので、今後の介護対策としても、今、実施するのがおすすめです。

■新年度、新学期到来!家族の安否や見守り確認、最新アプリやツールの検討を♪アナログなやり方も忘れずにね♪
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5516

アイデア3「危険をイメージしやすくする」

いくら情報を得ても、なかなか自分の危険をイメージしにくいのも事実です。以前も書きましたが、

■これは逃げたくなる!100mm/時の雨の重さってどのくらい?車が水没した時、割れやすいのはどこのガラス?
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1892

講演中に「1時間に100ミリの雨だったら逃げますか?50ミリでは?30ミリは?」と聞いても、「?」という顔をされる方は多いです。なぜかというと、単位がミリなんです。かなりしょぼそうに思えますよね。そこで講演では、荒木健太郎さんが作ったイラストを紹介しています。これ、こどもたちの受けがすごくよくて。園児なんて、前まで見に来てくれたりするんです。1時間に100ミリの雨とは・・

雲研究者。気象庁気象研究所研究官荒木健太郎さん『雲を愛する技術』(光文社新書)より引用

1m×1mに、1時間に1回100キロの小ぶりな力士が1人落ちてくるのと一緒。この迫力の画像を見ると、これは逃げるべきって思ってくださる方は多くて、みなさんカメラで撮影されて情報をお持ち帰りされます。お子さんにも伝えたくなりますよね! 

こちらは水の重さを力士に換算しているので、もちろん一瞬で力士たちが降ってくるわけではないですが、低地に流れ、土壌に浸透し、浸水や河川氾濫、土砂災害に結びつく、そんなことをイメージしていただければと思います。

そして講演では、1時間に50ミリで避難勧告、避難指示がでるかもしれない。でも、1時間に30ミリでも、子どもや介護が必要な方がいるなど避難に時間がかかるのであれば、早めに避難するべきとお伝えしています。

なぜなら、水の力はとても強いので人が簡単に制御できないからです。膝より深ければ体ごと流される危険があります。それ以下でも流れが早ければ、流れの速さ×2乗の力がかかる動水圧により、見た目より強い力がかかるので流されやすいからです。

■川の水難事故に、泳ぎのうまいへたは全く関係ない!? 海のアドバイスは川では使えません!川遊びのライフジャケットはシートベルトと同じくらい重要
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1917

岡山で講演した時に参加してくれた中学生がこの力士のスライドを覚えていてくれて、大雨情報を見ている最中、「力士だ!」と声をだしてくれたそうです。その家族はみなさん早めに避難してくださっていました。

アイデア4「土地のことを知る=行政ハザードマップ利用」

ただ、今回は1時間の雨量よりも、長い時間雨が降り続くことによる土砂災害や河川の氾濫、浸水が起きていました。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、西日本豪雨の積算雨量図を公開した図です(上)。下は、7月1日午前9時から8日午前8時までの降水量の時間変化を表した動画。(西日本豪雨:JAXA、1~8日の降水量変化を公開(提供)出典:Youtube)

そんな時はいつ逃げるのがいいのでしょうか?

ウェザーニュースが、全国の水害想定区域と低位区域と、積算総雨量400mm以上の場所、そして、ウェザーニュース読者の方が送ってくれた被害データを重ねた資料がこちらです。

積算雨量は雨の降り始めからの量です。400ミリを越えるとハザードマップで危ないとされている地域の80%に浸水の被害があったとのことです。低い土地や川の近くでは400ミリを避難の判断にするというのもいいのかもしれません。ただし、これも土地の状況によりますよね。

倉敷市洪水・土砂災害ハザードマップ http://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/100849/06mabihunao.pdf

この時、行政がだしているハザードマップは参考になります。みなさん、ちゃんと見ていますか?

アイデア5 自分の住所で危険がわかるおすすめサイト

ただ、今回は、土砂災害警戒区域にこれから指定しようと思っていた場所でも被害がありました。ハザードマップに危険と書かれていなければ安全というわけではありません。

自分で土地の状況を調べる簡単な方法もあります。民間サイトですが、浸水や液状化、地震の危険など住所入力することで危険がわかります。すべての危険がまとめて、そして自分の住所で調べられるので、「自分ごと」にしやすいメリットがあります。こちらの地盤ネットが運営する「地盤カルテ」は、住所とメールアドレスを登録する必要があります。

■地盤カルテ(地盤ネット株式会社)
https://jibannet.co.jp/karte/

地盤カルテのサンプル。自分の住所とメールアドレスを登録すると、メールに「地盤カルテ」が送られてくる(出典:地盤ネット)

写真を拡大 地盤カルテの見方 (出典:地盤ネット)

写真を拡大 「地盤カルテ」の使い方(出典:地盤ネット)

講演中に自分の土地を調べてくださったという方が、思ったより、液状化や浸水の危険があるとわかったとおっしゃっていました。住所を元にしたカルテなので一覧性があって感覚的に危険がわかります。

さらに、ジャパン ホームシールドが運営する「地盤サポートマップ」もおすすめです。隣の家は大丈夫だけど、自分の家は揺れやすいなどの状況までわかります。こちらは登録不要で調べられます。これから土地を購入する人も必見です。

■地盤サポートマップ(ジャパン ホームシールド株式会社)
https://supportmap.jp

ジャパンホームシールドが運営する「地盤サポートマップ」(出典:「地盤サポートマップ」)

使い方は簡単です。登録不要で住所を入力するだけ。そうすると上記のような表がでてきます。なんでうちだけ地盤が弱いのか・・昔、沼だったのか?と思ったら、過去の航空写真と見比べることもできます。

また、住所部分をクリックまたは長押しすると、レポートが作成されます。

地盤サポートマップforUで得られる情報(出典:地盤サポートマップ)

避難所までの最寄り情報と、地形の基本情報、ゆれやすさ、液状化、土砂災害の評価です。

これだと親子でやってみたくなりませんか?うちの地域は安全と信じている方でも、住所でピンポイントの情報だと、これは・・?と思っていただけることうけ合いです。

そして、これを見た後に、あらためて、気象ニュースで言われている次の言葉を聞いてください。

「土砂災害、低い土地、河川の増水・氾濫に厳重な注意をしてください」

いつも言われている常套句なので、何一つ頭に残らず聞き流してしまいがちです。でも、実はとても重要な自分に関係のあるキーワードが使われていることに気づくのではないでしょうか?

後編でも、引き続き早期避難のポイントを考えていきたいと思います♪

(了)
 

© 株式会社新建新聞社