精神疾患を社会から抹殺する対象に 精神科医の野田正彰さん <強制不妊を考える>

「学術的に遺伝性が明確でない精神疾患を法律で決め、社会から抹殺する対象にしたことは許されない」と語る野田正彰さん

 「不良な子孫の出生防止」を目的に、精神疾患や障害のある人たちに不妊手術を強制してきた旧優生保護法(旧法)とは何だったのか-。1970年代から旧法がはらむ問題点を指摘してきた精神科医でノンフィクション作家の野田正彰さん(74)=京都市=に聞いた(浪床敬子)

 -国の統計などによると、旧法の下で約2万5千人に不妊手術が施され、うち1万6500人近くが強制だったとされています。

 「1956年に北海道衛生部などが優生手術件数の千件突破を記念して出した冊子が出てきたが、国の統計に残る手術件数はその数よりかなり少ない。国の統計から漏れている数が相当あり、実数はもっと多いことが推測される」

 「特に精神分裂病(統合失調症)は手術全体の85%を占め、精神分裂病患者をターゲットにものすごいことが行われ続けてきたことが分かる。有病率0・7~0・9%という100人に1人弱も発症する精神疾患を優生手術の対象にしたことは犯罪的で、許されることではない」

 -70年代から旧法の問題点を指摘してこられました。

 「一番の問題は、遺伝性が証明されていない精神分裂病や躁うつ病、てんかんなどを遺伝性疾患と法律で決め、社会から抹殺する対象にしてしまったことだ。確かに当時は遺伝性が強いという研究はあったが、あくまでも一つの学説に過ぎず、遺伝性疾患とする明確な根拠はなかった。その結果、患者や家族は結婚差別などを受け続けており、今につながっている問題だ」

 「60~70年代の大学医学部の精神科教室では、精神病の内因性(遺伝性)を示唆した教科書をほとんどの学生が読み、内科や外科の医者、看護職、医療職にも浸透していった。さらに一般の教科書にも精神疾患の遺伝性に触れ、優生手術を勧める記述があり、国民の常識となっていった。旧法が日本の精神医療、精神病に対するイデオロギーとして確立されていったということをみんなが認識し、再検討していかないといけない」

 -旧法がはらむ問題をどう受け止め、考えていくべきですか。

 「旧法をめぐって全国で国家賠償請求訴訟が起こされているが、被害者への補償だけで済む問題ではない。もちろん補償はなされなければいけないが、一部の人への補償問題にすり替えられれば、社会が良くなる機会も失われる」

 「いま安易な診断もあって『うつ病』とされる患者が増えているが、うつ病患者だって世が世なら優生手術の対象になり得た。そうした普遍的な問題として捉えなければいけない。日本の医学や医療、国民に染み付いた戦後日本のイデオロギーはこれまで一切訂正されておらず、どう訂正するかが問われている。日本全体の再教育をしなければ、この問題は解決しえない」

◇のだ・まさあき 1944年、高知県生まれ。北海道大医学部卒。長浜赤十字病院精神科部長、関西学院大教授などを歴任。著書に「犯罪と精神医療」などがあり、「コンピューター新人類の研究」は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。京都市在住。

(2018年7月20日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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