「楽しみながらプレーをする」海外を知る指導者たちが子供たちに伝えたい思い

「All Nations Baseball」が開催された【写真:大森雄貴】

国境なき野球団「All Nations Baseball」が目指す野球とは…

「Good Job!!」

「Thank you!!」

 千葉県の八千代総合運動公園野球場には、子供たちの走り回る姿と“英語”での会話が響いていた。

 7月3日から計4回行われる、子供向け野球スクール「American Baseball School」が開催されている。試合を通したスキルアップを狙いとし、海外野球を経験したコーチたちが“Play Ball”(楽しみながらプレーをする)をモットーに指導にあたる。

 国境なき野球団こと一般社団法人「All Nations Baseball」は、現在MLBツインズ傘下のマイナーチームでコーチを務める三好貴士氏が代表を務め、海外6か国でプレー・指導し、オーストリアナショナルチームのコーチであった田久保賢植氏や、MLBジャイアンツで日本人初のブルペンキャッチャーを10年以上務める植松泰良氏などがメンバーに名を連ねる。年末には、MLBダイヤモンドバックス傘下からDeNAに入団した左腕・中後悠平も出場した東日本大震災へチャリティーマッチを行っており、野球啓蒙・社会貢献を担う団体である。

「American Baseball School」とは、小学校3年生から中学1年生を対象に、試合を通して野球の楽しさを体感すること、とにかく失敗を多く経験することを内容とした野球教室だ。All Nations副代表を務める田久保氏に加え、社会人野球チームのフェデックス前監督である萩島賢氏らがコーチを務める。

 これまで、横浜エリア、群馬エリアで開催されていたが、第3回となる今回は、本プロジェクトの音頭をとる田久保氏の地元、千葉県八千代市エリアでの開催となった。

 スクール初日の7月3日、グラウンドには色とりどり、様々なユニホームを着た子供たちの姿があった。個人での申し込みのため、所属するチームはそれぞれ異なり、「はじめまして」の子供たちが大多数だった。

 開会式では、本スクールの願いや今後の予定の説明に続き、コーチ陣の自己紹介が行われた。その中で、田久保氏が「コーチのことは“ケニー”と呼んでください」挨拶すると、アメリカンスタイルに子供たちの表情が和らいだ。

「American」なだけに、子供たちには野球で使える英単語表が資料として配られ、プレー中はできる限り英語を使うよう心がけるタスクが課されている。そこには「簡単なことから恥ずかしがらず、どんどん英語で話すチャレンジをしてほしい」という、海外野球経験が豊富な田久保氏の願いが込められている。

子供たちの自主性に任せ、試合で学ぶ

 開会式が終わると、田久保チーム、萩島チームにメンバーが分かれ、各チームのキャプテンを“立候補”で選出した。

 ウォーミングアップは「10分間のみ」。子供たちは与えらた時間で、自分らで考え、行動した。この「10分」の狙いについて、田久保氏は次のように説明する。

「日中、学校で体育など運動もしており、各自スクールに来てすぐにグラウンドへ入り、壁当てやキャッチボールをしている。子供にウォーミングアップの目的意識の認識を持たせることは難しいが、それぞれに考えさせ、実行させている」

 試合では、自チームで守るポジションに限らず複数のポジションに挑戦したり、多くの子供たちがピッチャーを務めたり、実践を通じた成長を促していた。試合で生じたミスに対しても、怒ることや特別な指導をすることはなく、自分たちで課題を見つけさせる取り組みが見られた。初対面の子供たちで組んだチームにも関わらず、均衡した白熱の試合展開となった。

 試合が終わると、子供たちは簡単な英語も交えながら泥だらけのユニホーム姿で、笑い声を響かせた。まさに、海を渡り野球を楽しんだ主催者コーチたちの“Play Ball”(楽しみながらプレーをする)というモットーそのものだ。

 近年、日本の若年層における野球の競技人口は、激減の一途をたどっている。理由は千差万別とされているが、その傾向に歯止めをかけるためにも「子供が野球を楽しむ」という取り組みは重要なことなのかもしれない。

 スクールでは、2時間の活動時間のうち、1時間半を試合に費やした。

 現在、日本の少年野球では“公式戦”が増加している。試合数が増えれば、出場できる選手の数も増加するように思えるが、公式戦では出場するメンバーはレギュラーに固定されてしまうことがほとんどだ。欧米では、スポーツをクラブ単位で実践し、試合に出場できない選手は他のクラブへ移籍したり、1つのクラブから複数のチームを大会にエントリーさせるなど、全員が試合に出られる仕組みを取っている。

 そういった海外事情を知る人々が運営する、国境なき野球団「All Nations Baseball」には、試合の中でこそ得られることがある、という信念の下、今後も野球の普及活動を続けていく。(大森雄貴 / Yuki Omori)

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