自立と明るい未来信じ 自閉症の息子 佐世保の施設に 7月22日 親子の日

 親がいなくても自立した生活ができることを願い、自閉症を抱える息子と別々に暮らす母親が佐世保市にいる。元村未希(46)は、中学3年で長男の智輝(14)を長崎市内の入所施設に預け、1年3カ月余りが過ぎた。会えない寂しさに押しつぶされそうになりながら、少しずつ前に進んでいる。7月22日は「親子の日」。

 佐世保市内の公営団地。玄関や部屋の壁を数十枚の写真が埋める。幼少のころから最近のものまで、撮影時期は幅広い。「智輝の存在を確認しながら毎日生活している」。未希はそう言って写真に目をやった。
 31歳で妊娠。シングルマザーとして生きることを決めた。息子が周囲の子と違うと気付いたのは2歳のころ。言葉も発しないし、歩かない。3歳で自閉症と診断された。「そうなんだ」。個性と捉え、特に気にしなかった。悩むことはあったが親一人子一人。精いっぱいの愛情を注いできた。
 智輝は市内の特別支援学校小学部に入り、自宅からバスで通った。日曜は「お出掛けの日」。路線バスに乗って商業施設に行き、昼食を取って帰るのが“ご褒美”だった。
 しかし、次第に息子のバスへの「執着」が強くなる。小学2年のとき、目を離したすきに1人で乗り込み、警察官に保護された。その後も行動範囲は広がり、未希は見失わないように付いていくのが精いっぱいになった。朝が来るのが怖くなり、心と体は擦り減った。「このままでは共倒れしてしまう」。中学2年になる春、長崎市内の入所施設に入れた。
 独りぼっちの食卓と寝室、自分だけの洗濯物-。涙があふれる日々が続いた。「強い母親にならないといけない」。自らを奮い立たせた。少しずつだが心は落ち着いてきた。
 息子に会えるのは、クリスマス会や運動会、授業参観など年に数回ほど。同級生とは仲良く過ごしているようで、升目の中に文字も書けるようになった。少しずつだが成長していると感じる。
 未希は「何でもしてあげようと必要以上に手を掛けていた」と一緒に暮らしていたころを振り返る。「親はいつまで生きているか分からない。私がいなくなっても普通に生活できるよう、少しでもできることが増えていけば」
 今を乗り越えることができれば、智輝に明るい未来が開けると信じている。

=文中仮名、敬称略=

壁に智輝(仮名)の写真を飾っている部屋で、未希(仮名)は息子の成長を願っている=佐世保市内

© 株式会社長崎新聞社