里子18人の母親が語る虐待の解決策

栃木県に暮らす畠山由美さん(57)はこれまでに18人の子どもを里子として受け入れてきました。虐待をなくすために市民有志とNPO法人を立ち上げ、子どもの「居場所」をつくっています。虐待が起きる背景には、「生きづらさを抱える親の存在がある」とし、地域を巻き込みながら、孤立した親の支援を行います。(JAMMIN=山本 めぐみ)

2004年9月、栃木県小山市で、4歳と3歳の幼い兄弟が同居男性から暴行を受けた上、川に投げ落とされ死亡するという事件がありました。畠山さんは「この様な事件が、自分の住む町でいつ起きてもおかしく無いと感じました」と振り返ります。

市民有志と共に、子どもへの虐待を無くすことを目的とした団体を立ち上げました。それが、「NPO法人だいじょうぶ」(栃木)です。

■季節外れの服、真っ黒な上履き…

「NPO法人だいじょうぶ」が運営する放課後支援の居場所「Your Placeひだまり」にて、夕食づくりを手伝う子ども達。家庭では当たり前のこんな光景や環境が、自分の家に帰ると全くないという子どもたちがたくさんいる

代表の畠山さんは養育困難な家庭の子どもの居場所作りに奔走してきました。家庭で暮らせない子どもたちをこれまでに18人、里子として家庭に迎え入れてきたお母さんでもあります。

「『同じ日本に、こんな子どもたちがいるなんて』と驚かれることがありますが、季節外れでサイズの合わない服を着て、穴の空いたボロボロの靴を履き、お風呂にも入らずボサボサの頭で学校へ通う子どもたちがいます」と養育困難な家庭の子どもたちの現状を訴えます。

「NPO法人だいじょうぶ」代表の畠山さん

「だいじょうぶ」の活動のひとつは、虐待の早期発見・解決のための電話や面談による相談事業です。活動拠点のある地元の地域では、24時間体制で電話相談窓口を設置していて「『夜、一人で家にいて不安になった』『子どもに手をあげてしまいそうだ』といった相談が毎月3〜40件ほどあります。内容によっては会って話を聞き、行政とも連携しながら既存の支援へとつなげています」。

もうひとつは、虐待や育児放棄の疑いがある家庭の子どもたちのための放課後支援の居場所「Your Placeひだまり」と、頼るあてのない母子の託児所「キッズルーム」の無料運営です。

「虐待を受けた子どもが傷ついているのはもちろんですが、育児で疲弊し、このままだと我が子を虐待してしまいそうだと危機感を抱く親御さんもいます。彼らの居場所を作りたかったんです」

■虐待の気配はあっても親に否定されると家庭に介入できない現状

「Your Placeひだまり」の日常の光景。座卓をかこんでみんなでボードゲームをしているところ

「明らかに家でご飯を食べられていない子どもや、季節を問わず毎日同じ服を着ている子ども…。そういった子どもや家庭に声をかけて、『Your Placeひだまり』へ足を運んでもらうようにしています」と畠山さん。

しかし、家庭の内部で起こる虐待や育児放棄は外からは判断しづらく、親の理解を得ないことには難しい部分があるといいます。

「深刻なのは、家庭訪問しても親御さんに会えず、話ができない場合です。極端な話、学校にいる間は、子どもの命は守られる。子どもたちが強制的に行政の保護の対象になるのは、安否確認ができなくなった時点です。でも、それでは遅いこともあります。もっと手前の段階で虐待を防ぎたいのですが、親御さんから『ダメ』とか『うちは問題ない』といわれてしまうと、私たちとしてはどうすることもできません」と現在の支援のあり方に疑問を投げかけます。

「子どもたちの通う学校や幼稚園とも協力しながら、単発のイベントに誘ったりして徐々に『ここは毎日遊びに来られるんだよ』などと話をして、本当に少しずつ、支援が必要な子どもたちとつながっています」

「『Your Place ひだまり』は、子どもの居場所として、無料で放課後支援をしています。コンセプトは、『身内のように、家族のように』。養育困難家庭にある子どもたちをお風呂に入れたり、一緒にご飯を食べたり、外で遊んだり、宿題をしたり…。何か特別なことをするわけではないですが、家庭に居場所がない子どもたちの居場所として、第二の我が家のような存在になれたら」

■やがて大人になる子どもたちのために、生活の基盤を築く

日々虐待の疑いがある家庭への訪問を行なっている畠山さん。ニュースにはならなくても、追い詰められている養育困難家庭の子どもたちの現実を、次のように語ります。

「たとえばあるご家庭を訪問した時、歯ブラシも歯磨き粉もなかった。つまり、その家庭には『歯を磨く』という習慣自体がなかったんです。台所にはお膳どころか食材も何もなく、お金が入った時だけコンビニで何かを買ってきて食べる、という生活を続けていました」

「別の家庭では、『ご飯が作れない』という若いお母さんが、2歳になる乳児に食事を与えず清涼飲料水やお菓子をあげていて、子どもの生えたての乳歯がすべて虫歯だったんです」

「ある中学校を訪問した時には、髪の毛がベタベタで臭いもある女の子に出会いました。少し話をさせてもらった際に『お風呂に入っている?』と聞くと、『入っている』と答えたんですが、後でわかったのは、実は誰からも頭を洗うことを教わったことがなくて、シャンプーを泡立てることや、洗い方を知らなかったんです」

「大切なのは生活の基盤を築くことです。これは子どもたちが大人になり親になったとき、必ず必要になってくるものです。みんなで『いただきます』と手をあわせて食卓を囲むことや、体をいたわった食生活、季節の行事やお祝い事を共に祝うこと、互いに支え合うこと」

「本来であれば何気なく身に着くはずの日常を、やがて自分の子どもにも伝えられるように、生きる上で必要な生活習慣や人間関係に、支援を通じて触れてほしいと願っています」

虐待や育児放棄の背景には、生きづらさを抱えた親の存在がある

皆でピクニックに出かけた時の1枚。大きい子が小さい子の面倒を見てくれたりと、年齢に関係なく皆が親しく過ごす

「Your Placeひだまり」では、子どもたちの居場所として放課後、帰宅までの時間を一緒に過ごすだけでなく、子どもたちの衣服はもちろん、必要があればその家族皆の衣服も洗濯するといいます。

「子どもを預かる理由は様々です。経済的に苦しくて親御さんが働いているからなのか、精神的なところで家事育児ができないのか、家庭によっても異なってきます。それぞれの家庭に合わせて、必要なサポートをしたい」と畠山さん。こういった親たちの現状を聞くと、次のような答えが返ってきました。

「生活費を稼ぐために働きたいけれど病気がちだったり、精神的な病が理由で仕事をなかなか続けられなかったり。お金がないのにギャンブルをしてしまうギャンブル依存症や、薬物依存症の親御さんもいます」

「いずれにしても、子どもに全部しわ寄せがいき、そのまま子どもが被害を受けるかたちになります。子どもを通じて家庭の事情がわかれば、事前に深刻な事態に陥ることを回避できます」

「活動は子どもの支援がメインですが、どんな家庭でも、虐待の背景には生きづらさを抱えた親御さんの存在があります。親御さんも含め家庭をトータルで支援すること、そうして負の連鎖を断ち切っていくことが必須だと感じています」

地域で子どもたちとその家族を支えたい

「NPO法人だいじょうぶ」は、子育てに苦しさを感じる親の心の回復プログラム「MY TREEペアレンツプログラム」事業も実施している。こちらはそのテキスト

想像を絶するような現場もあるのではないか、という問いに、畠山さんは次のように話してくれました。

「お母さんが子どもの目の前で何度も自殺未遂をする、子どもの目の前で薬物を摂取する、暴力団とのつながり…、子どもの置かれている状況によっては、彼らの身の危険を感じずにはいられないケースも過去にありました」

「預かっている間はまだ良いのですが、『夜家に帰った後、どう過ごすんだろう』と想像すると、あまりに過酷すぎて居ても立ってもいられないという状況にある子どもたちもいます」

「児童相談所は、身体的な暴力でないと積極的にその家庭に介入できないという事情がありますが、そこには至らなくても、子どもたちが虐待を受け傷ついていることは十分あり得ます」

「子どもには、様々な可能性、パワーが秘められている。一人ひとりが持つ力を良い方向に導いてあげるのが、きっと大人の役割。子どもや家族が自分たちだけで抱え込まない、SOSを自ら出せるような環境を、地域の人たちが助け合い、支え合って作っていくことができれば。そのためには、まずは同じ地域にこんな子どもたちがいるんだということを、地域の人たちに知ってもらう必要があります」

■養育困難な家庭の子どもとその家族を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「だいじょうぶ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×だいじょうぶ」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がチャリティーされ、「だいじょうぶ」が運営する「キッズルーム」で、支援が必要な乳児とそのお母さんを支えるため、オムツやミルク等を購入するための資金となります。

「お母さん方もまた、自分の生い立ちの中で心の傷や、孤立した育児の中で日々戦いながら、精一杯子育てをしている。疲れから暗い顔をしていたお母さんが、スタッフとお茶を飲んで笑顔になった姿を見て、小さい赤ちゃんもいい笑顔を見せてくれることがある。託児所が母子関係の改善の一助となって、将来的な虐待をも防ぐことができれば」(畠山さん)

「JAMMIN×だいじょうぶ」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなども販売)

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、山の中の小さな小屋。みんなにとっての「居場所」である「だいじょうぶ」の活動を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、7月23日~7月29日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、畠山さんのよりインタビューを掲載中。こちらもあわせて、チェックしてみてくださいね。

虐待、育児放棄…養育困難な家庭と子どもを支援、虐待を未然に防ぐ〜NPO法人だいじょうぶ

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!

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