この猛暑は災害である 2010年には1700人が死亡 企業の対策も急務

全国各地で、熱中症によると見られる死者が相次いでいる。7月に入って都内だけでも30人以上が死亡したというニュースも報じられているが、実は、熱中症による死亡者は年間1000人を超えることもある。

厚生労働省が発表している人口動態統計によると、過去に最も熱中症による死亡者が多かったのは2010年で1731人にのぼる。この年の月別の熱中症の死者を見ると、7月だけで657人、8月には実に765人が熱中症で死亡していたことがわかる。さらに、2011年は948人、2012年727人、2013年1077人、2014年529人、2015年968人と推移している。65歳以上が8割近く占めるが40~50代も多い。

ちなみに、一般的にニュースで報じられている熱中症による死亡者数は、報道機関が独自に調査したものか、消防庁が発表している数字で、いずれも緊急搬送され「初診時において熱中症による死亡が確認され人」の数値が使われることが多い。一方、厚生労働省の人口動態統計は、最終的に死亡が確定した段階で医師が死亡診断書に、死因を熱中症と記載した人の数<ICD-10(国際疾病分類第10版)におけるX30(自然の過度の高温への曝露)を死因とするもの>であり、より正確な数字となっている。ところが、死亡診断書の作成には時間がかかり厚生労働省から概算が発表されるまでには半年程度がかかるため、この数字がメディアを通じて一般に知られることはあまりない。

ただし、過去の両者のデータを比較してみると、その数字は数倍~10倍近くも異なることがわかる。例えば、2010年、総務省消防庁が発表した熱中症による死亡者は、7月が95人で8月が62人と、厚生労働省が発表した数字の10分の1程度の数だった。

こうした傾向からすると、今年7月以降の緊急搬送件数は例年を大幅に上回っており、最終的な死者が過去最悪になることも懸念される。

厚生労働省「人口動態統計における月別の熱中症の死者数」

熱中症による死亡者数の比較(厚生労働省発表と総務省消防庁発表)

企業も対策が急務

ちなみに、企業においても熱中症により命を落とす人は少なくない。2010年には47人が職場において熱中症で命を落としている。作業環境の配慮が足りなかったり、応急措置を怠っていたとすれば、安全配慮義務違反も問われかねない。

出典:厚生労働省

 

周囲の初動が大切

では、なぜ被害を防げないのか?

問題として考えられるのが、熱中症を甘く見て十分な対策をとっていない本人の問題に加え、周辺にいる人たちの初動対応だ。

熱中症対策で言われることは、「水をこまめに飲む」「塩分をほどよくとる」「日常的に睡眠や栄養をしっかりとる」など、一見、誰でも簡単にできそうなことばかり。あえて特別な対策をしなくてもいいと、甘く考えがちだ。確かに、熱中症に関するニュースを聞いていると、「こまめに水分補給をするように」と繰り返されているだけで、周囲に重症者が出た際の対応までは意識が回らない。

いざ、目の前に熱中症患者が現れた時には、それが熱中症によるものなのか、どう対応していいのかもわからず、まず水分補給をさせようと思っても、すでに患者は自分では水も飲めない状況となっていて、救急車が到着したときには手遅れになってしまう。

軽度・中度・重度によって対応は異なる

厚生労働省によれば、「熱中症」とは、高温多湿な環境に長くいることで、徐々に体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指す。その症状に応じて、軽度、中度、重度と分類されるが、それぞれの症状によって取るべき行動は異なる。

総務省消防庁では、症状に応じた対処方法や医療機関への受診の判断基準をパンフレットにまとめている。
それによると、症状が軽度の場合、症状が改善すれば医療機関の受診は必要ないが、中度以上の状態なら医療機関の受診を推奨している。判断基準となるのが自分で水が飲めない場合や、症状が改善されない場合だ。さらに、意識障害やけいれんが起きて重度が疑われるときには、救急車を要請することとしている。具体的な応急手当についてもイラスト付きで紹介されているので分かりやすい。
 

総務省消防庁 熱中症対策リーフレット

熱中症対策リーフレット

 

呼びかけへの反応がわるい場合は直ちに119番 

こうした初動対応の手順をわかりやすく示しているのが、環境省がまとめた「熱中症環境保健マニュアル 2018」である。
周囲に熱中症が疑われる人が発生した場合の基本的な流れを解説。

まず、呼びかけに応えないときには、すぐ救急車を要請する。
その際の注意点として、救急車が来るまでの間、呼びかけへの反応がわるい場合は無理に水を飲ませてはいけないことや、氷のうなどがあれば、首、わきの下、太ももの付け根を集中的に冷やすことも盛り込んでいる。

環境省環境保健マニュアル2018

いかに早く体温を下げるか。氷の水風呂に患者を浸す

一方、救急科専門医の鶴和幹浩氏(株式会社 指導医.com代表取締役)は、熱中症は、発症初期には重症かどうかがわかりにくく、後で悪化することもあると指摘している。さらに、合併症率や死亡率は高体温の時間によるため、いかに早く体温を下げるか、まず必要になるのが冷却だと強調する。
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1562

体温が高いままだと救急搬送を依頼している間にもどんどん病状は悪化していくため、とにかく、冷却を遅らせるようなことがあってはいけない。もっとも効果的な冷却方法は「氷の水風呂に患者を浸す」という治療法だという。鶴和氏によれば、水温15℃以下の水風呂に入れると、3~5分ごとに体温が1℃下がるので、それでも患者を10~15分間浸す必要があるそうだ。
実は、アメリカでも米疾病予防管理センターが熱中症患者に対して、冷水や氷風呂(ice bath)で可能な限り早く冷やすことを推奨している。

日本では、具合が悪くなっている人を氷水の中に入れるという対処方法は考えつきにくいし、仮にそれができる環境であったとしても、受け入れられ難いが、今後、熱中症の被害を軽減させていくためには、こうした方法も含め、どのような応急処置をどの程度続けることで、どの程度の効果があるのか、論的根拠を示していくことが必要だろう。

WBGTや外気温によるルールを

もう1点、すでに一部の企業ではすでに取り入れているが、暑さ指数(WBGT)や外気温、気象庁からの高温注意情報などを判断基準に、屋外での作業や運動を禁止にするなどのルールも整備することを検討した方がいい。7月17日には愛知県豊田市で小学1年生の男児が学校で意識を失い、搬送先の病院で亡くなる痛ましい事故が起こったが、特に小さな子供や高齢者がいる施設では、判断しやすいルールをマニュアルとして整備すべきではないか。

熱中症にならないように「こまめに水分を取る」といった自己管理は当然必要だが、それだけではなく、具体的に熱中症を発生させない環境の整備と、熱中症患者が目の前に発生したらどう対処するのかという視点を取り入れ、今後の対応を早急に整えていく必要がある。

(了)

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