『沖縄スパイ戦史』 緻密な取材で掘り起こした沖縄戦の史実

(C)2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会

 太平洋戦争末期にアメリカ軍が上陸し、民間人を含む20万人余りが死亡した沖縄戦。近年はハリウッド映画『ハクソー・リッジ』でも描かれるなど幾度となく映画の題材になってきたが、このドキュメンタリーで取り上げられている史実は、恥ずかしながら知らないことばかりだった。

 陸軍中野学校でスパイ教育を受けたエリート将校たちが、沖縄の10代半ばの少年たちでゲリラ部隊「護郷隊」を組織し、米軍の沖縄上陸に備えたという。元少年兵たちの証言が生々しい。また、南端の島・波照間では、軍命によってマラリアの有病地帯だった西表島に強制移住させられ、島民の三分の一がマラリアで命を落としていた。さらには、海軍の「白石隊」によるスパイ容疑での住民虐殺…。

 日本軍はなぜそんな戦法をとったのか? なぜ虐殺は起きたのか? 緻密な取材によって洗い出し、辛抱強く検証していく作り手の熱意と努力に頭が下がる。映画のジャーナリスティックな側面に限れば、突出した成果だろう。監督は、『標的の村』などで沖縄にカメラを向け続けるアナウンサー出身の三上智恵と、学生時代から八重山諸島の戦争被害を取材してきた俊英・大矢英代。

 沖縄は、今も米軍基地問題に揺れ、それだけでなく陸上自衛隊という日本の“軍隊”まで駐留している。そしてもちろん、先の戦争が影を落としているのは沖縄だけではない。本作で彼女たちが掘り起こした史実は、決して過去の問題ではないのだ。★★★☆☆(外山真也)

監督:三上智恵、大矢英代

7月28日(土)から全国順次公開、21日(土)から沖縄・桜坂劇場先行公開中

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