『ウインド・リバー』 アメリカ社会の闇をあぶり出すクライムサスペンス

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 『ボーダーライン』の脚本家テイラー・シェリダンの監督デビュー作。カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で監督賞を獲得しているが、見る前はかなり心配だった。『ボーダーライン』は社会派アクションとはいえ、監督のドゥニ・ヴィルヌーヴの前衛性が際立つ作品だと思っていたし、そもそも脚本家と監督の資質は別ものだから。だが、それは杞憂に過ぎなかった。

 雪深いアメリカ先住民の保留地で、18歳の少女の変死体が発見される。その事件は、差別の歴史というアメリカ社会の闇に根差していた。シェリダン監督が、『ボーダーライン』『最後の追跡』(日本未公開)に続く3部作の最終章と語るように、『ボーダーライン』との共通項は多い。経験の浅い女性FBI捜査官が狂言回しの役割を担う点、アメリカ社会が抱える問題に迫るメッセージ性…。そして、焦らず丁寧に背景や人間関係を説明していく語り口と緊張感みなぎる娯楽性の融合、それ故に浮かび上がるエモーショナルなメッセージは、いかにも脚本家出身の監督らしい。

 だが、彼はそのレベルで終わっていない。吹雪の物語面だけにとどまらない空間的な活用や、雪原の白×血の赤、クライマックスの非情な銃撃戦×ラストのブランコの詩情といった対比や緩急の妙…演出力も並ではない。リアルで詩的。必見のクライムサスペンスだ。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:テイラー・シェリダン

出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン

7月27日(金)から全国公開

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