【この人にこのテーマ】〈シャッター・ドア業界の現状と課題〉《日本シヤッター・ドア協会・長野敏文会長(三和シヤッター工業副会長)》防火設備の点検制度普及促進 浸水防止用設備のJIS化も急ぐ

 住宅や商業施設、ビルや倉庫などに設置されているシャッターやドアは、防犯や防災といった危険を遠ざける建材商品として重要な役割を担っている。シャッター、ドア業界では2016年に防火設備の点検制度を開始したり、新たな防災対策として浸水防止の基準を策定するなど、足元では大きな転機を迎えている。日本シヤッター・ドア協会の長野敏文会長(三和シヤッター工業副会長)に業界の現況や事業活動などを聞いた。(伊藤 健)

――まずは協会の概要から。

 「1964年(昭39)年に社団法人シヤッター協会として、正会員23社、賛助会員5社で発足した。2000年(平12)にシヤッター・ドア協会に改称し、シャッターおよび防火ドアを含めた防火設備に関する適切な普及・促進を図る団体として、安全・安心に関わる事業活動の推進している。18年3月末時点で、正会員、賛助会員など含めて176社が加盟。会員企業は主にシャッターやドアの製造関係が多いが、浸水防止関連の企業も加盟している」

――協会の主な事業活動は。

 「現在注力している事業は、16年6月から施行された防火設備の点検制度の普及活動と、浸水防止の基準策定とJIS化、そして施工者の技能検定制度の国家資格化、この三つに取り組んでいる」

――防火設備の点検制度については。

 「全国の建築物に設置されている防火シャッターやドアのストックは膨大なものとなっており、建築物の老朽化とともにシャッターやドアが経年劣化する中で、安全性の確保や適切に機能を果たせるかの確認、維持管理の在り方や定期的な保守点検が不可欠になっている。当協会ではこれまでも保守点検の法制化を目指して、学識者や専門家らを含めて幅広く検討してきた。14年に建築基準法が一部改正され、防火設備に関する新たな検査資格制度が創設された。そして16年6月に防火設備の定期点検制度が施行となり、当協会としても保守点検を行う技術者育成の講習会を開催、保守点検技術者の認定および登録を実施している」

 「火災で防火シャッターやドアなどが適切に機能しなかった重大発生事故がこれまで多く起こっていた。防火シャッターやドアは普段の日常生活の中では使わないこともあり、定期的な点検がこれまであまり行われてこなかった。しかし火災などの非常時に正常に機能しなければ、防火設備としての役割を果たせない。また正常に機能をしても、開閉部分に物などが置かれていれば、防火設備として役立たないことになる。管理の在り方も徹底していきたい。建材メーカーとして安全に防火設備が使われるよう、責任を果たしていきたい」

 「協会では点検制度の普及活動を進めている。建物主などユーザーへの告知・普及活動として、点検制度が施行された6月1日を『点検の日』、10月1日を『安全の日』と定めた。現在、ポスターなどの普及ツールを作成して普及・認知活動に努めている。また実際に点検作業を行う検査員の育成にも力を入れている。現在検査員は1360人まで増員した。しかし全国各地に設置されている防火設備は膨大な数であり、まだ検査員が足りていないのが実情。来年からは毎年の定期検査が義務付けられている。インフラ体制を整備することが急がれている」

――新たな防災・減災として浸水防止用設備のJIS化、基準作りを進めている。

 「先般も中国・四国など西日本地区を中心とした豪雨で多くの人が被災するなど、集中豪雨による災害が近年数多く発生している。当協会としても防災事業の一環として、浸水防止設備の普及が重要と考えており、13年からプロジェクトチームを、15年には浸水防止用設備委員会を設置して検討を重ねてきた。浸水防止用設備はこれまで会員各社が開発してきたが、浸水防止や止水性能の基準が統一されていなかった。当協会としては、今年度中に浸水防止用設備のJIS原案作成委員会を設置し、早急にJIS化に向けて取り組んでいきたい。明確な止水・防水基準ができることで、ユーザーにとっても安心して防水設備を設置することができるだろう」

――技能検定制度の国会資格化については。

技能・地位向上で人材確保/施工技術検定を国家資格化へ

 「先述の点検制度は国家資格であるが、シャッターやドアを施工する技能検定制度は現在、当協会の認定制度となっている。点検制度が国家資格であるならば、施工制度も国家資格であるべきであり、ユーザーに対してもより安心で安全な建材製品を提供できるだろう。技能検定の国家資格化は施工技術の向上という目的とともに、施工技術者の地位向上と人材確保といった意味合いも非常に大きいと考えている」

 「現行の制度では学科や実技などが異なっており、国家資格への昇格が難しい。このため当協会としては国家資格に昇格させる新たな検定制度の立ち上げを早急に進めており、早ければ今年度中に第一回検定を開始したいと考えている。現行制度からの円滑な移行を進めるとともに、新制度で2年ほど試行の実務経験を経て、早ければ3年後には国家資格化への昇格を実現したい」

――足元の需要環境については。

 「2020年の東京五輪・パラリンピックに関連するインフラ整備に伴う需要に加え、首都圏を中心とした再開発やインバウンドによるホテルや商業施設などの建設需要などが見込まれており、さらに物流関係では倉庫などの施設もまだ増えるだろう。当面は堅調に推移するとみている」

 「堅調な需要をこなすためには、やはり当業界では労働不足が大きな課題だ。働き方改革への対応もあり、労働改革をしっかりと実践しながら、人材の確保と生産性の向上・効率化を進めていかなければならないと考えている」

――素材の鉄鋼、金属業界への期待などについては。

 「鉄鋼関係からは主な原材料である亜鉛めっき鋼板のクロメートフリー化に向けた取り組みが進んでいる。当業界でも環境の問題として非常に重要なことと捉えている。我々は全国各地域でシャッターやドアを製造している。品質についてはもちろんのことだが、物流面などでも安定的にクロメートフリー鋼板を供給していただき、シャッターやドアの製造に支障が出ないように願いたい」

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