白骨死体に謎の遺品がゴロゴロ…樹海取材のプロが語る、猛暑でも冷や汗の出る「富士山・青木ヶ原」散歩案内

写真:村田らむ

僕は二十代の頃から、20年ほど青木ヶ原樹海の取材をしている。このたび『樹海考』(晶文社)として、一冊にまとめさせてもらうことになった。

樹海は864年に起きた貞観大噴火によってできた。噴火の際に噴出した溶岩は北側に流れ、湖(せの湖)に流れ込んで埋めてしまった。埋め切らずに残ったのが西湖と精進湖だ。

その溶岩の塊の湖に、1000年以上かけて樹木が生えたのが、青木ヶ原樹海だ。

このようないきさつでできた森だから、当然地面は溶岩石で固い。地下に潜れなかった樹の根が地上をウネウネと這い回り、倒木が重なり、岩がゴツゴツと転がる、とても歩きづらい森だ。

遊歩道や参道は人工的に整備された道だ。そんな道が、樹海の中にはいくつも走っていて交差している。

そんな道を歩いていると、発見がある。

樹海は言わずと知れた、自殺者が集まる森だ。樹海の遊歩道には、自殺者に向けての看板が出されている。

『命は親から頂いた大切なもの
もう一度静かに両親や兄弟、
子供のことを考えてみましょう。
一人で悩まず相談して下さい。』

という、鬱っぽい文面だ。

そもそも親や兄弟や子供のせいで自殺しようと思ってる人だっているだろうに(または、親も兄弟も子供もいない人だっているだろうに)、勝手なことを言う看板である。

こういう自殺を想起させる看板は、逆効果だとして最近は数を減らしている。なくなるとなると、それはそれで惜しい気がする。

ちなみに7月19日には、山梨県がこのような取り組みを行っているというニュースもあった。

自殺者は、遊歩道から森の中に入って死ぬが、さほど奥まで進まずに決行する人がほとんどだ。遊歩道から2~300メートルのところで死体が見つかることが多い。

中には遊歩道沿いで首をくくる人もいる。知り合いが正月に遊歩道を歩いていたら、樹によりかかるように立っている人がいた。微動だにしない。よく見ると、首にロープが食い込んでいた。50前後のおじさんだった。長髪でサングラスという、ちょいワルな雰囲気だった。

このように散歩、ウオーキングしている人に発見されるケースは多い。

ただ、遊歩道からそこそこ近くても、誰にも見つからずに骨になるケースもある。歩いていると樹からロープがたらーんと垂れているのを見つける。近寄ると首吊り死体をした跡だった。服や自殺に使った脚立は残っているが、身体はもう自然に返っている。ちなみに真夏だと、人の死体は数週間で骨になる。

ロープの下には白いモノが散らばっている。人の顎の骨だった。樹海の骨は、現代人のものだ。だからほとんどの歯には、治療痕がある。博物館で見る縄文人の骨にはない特徴だ。骨を急に生々しく感じ始める。

おそらく自殺志願者が残していったのであろうモノもよく落ちている。昔だと、ミュージックテープがよく落ちていた。家に帰って聞いてみたら、荘厳なクラシックがかかって鬱な気持ちになった。

その後はCDの束がよく見つかった。携帯式のCDプレイヤーで聴きながら来たのだろう。あれは電気を食うし、音飛びするから、樹海に持ってくるには向いていない。

最近では、デジタル式の音楽プレイヤーが見つかった。中身はサザンオールスターズの曲や演歌が入っていた。

樹海への携帯品も時代とともに変わるのである。

よく考えると怖い落し物もある。

遊歩道からしばらく奥に進んだ所にポコンとバイクのヘルメットが落ちていた。外側は傷んでいないが、内側には苔がビッシリ生えている。周りには他に捨てられた物はない。

このヘルメットの持ち主は、バイクに乗って樹海まで来たとして、ここにヘルメットを捨てたということは、どうやって帰ったのだろう? 自殺したのだろうか? 確かに樹海周辺には、捨てられた自動車やバイクが見つかることも多い。

財布や、カバンも見つかることが多い。背景を考察するとちょっと怖くなる落し物だ。

最後は遊歩道沿いにある、古いモノを紹介する。

前回は乾徳道場を紹介したが、乾徳道場に向かう道のりにも、見るべきものはある。

まず、しばらく進んだところに木の祠がある。小さい掘っ建て小屋のような建物だが、中には祭壇があり、掃除もされていてお供え物も置かれている。樹海に通うようになってから何度も見ている祠だが、心ない人が火をつけようとしたらしい。壁の板がライターで焼かれたように焦げているのだ。湿気っていて燃え広がらなかったようだが、こういう悪質なイタズラは勘弁してほしい。

もう少し進んだ所には、古くからの道しるべがある。もう風化が進んで読めないが、おそらく江戸時代に流行った富士講の跡だ。

他にも、石垣や、かまどの跡など、歴史的な遺物を発見することも多い。

休日には、青木ヶ原樹海の遊歩道、山道をあるいてみるのはいかがだろう?

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