【世界から】サッカーW杯の日本代表をスイスから見ると

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両国の選手がサインしたユニホームとボールはベルンにある日本大使館隣の広報文化センターに展示されている(C)在スイス日本大使館

 フランスが1998年以来となる2度目の優勝を果たしたサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会。W杯の開幕直前にスイスと日本が国際親善試合で対戦したこともあって、スイス国内の報道には日本代表チームに対する親近感が感じられた。そこで、スイスの視点から今回のW杯を振り返ってみたい。

▼親善試合で対戦

 6月8日、イタリアと国境を接するスイス南部の都市・ルガーノにあるコルナレード・スタジアムで日本とスイスの親善試合が行われた。W杯に出場する両国の一戦に対する注目度は高く、人気の席はチケット売り出しから1時間で売り切れとなるほどだった。日本側は個人以外に、在スイス日本大使を筆頭とする大使館関係者や商工会、スイス各地の日本人会、加えて隣国イタリアからも応援する人々が駆けつけた。

 結果はスイスが2対0で勝利し、日本はガーナ戦に続く黒星に終わった。しかし、その直後から流れが変わり、次のパラグアイ戦での勝利に結び付いた。スタジアム内でも、日本に対するポジティヴな話を数多く聞くことができた。例えば、ミラノからわざわざ駆けつけたというイタリア人3人組。驚いたことに日本代表のユニホームを着た彼らは「日本の選手は素晴らしい技術を持っているので、ファンになった。どうしても勝たせたい」と固唾(かたず)をのんでいたという。試合後に大勢のファンに囲まれた日本選手たちが親切にサインをする姿も好感を与えていた。

▼アップダウンした日本の評価

 W杯グループリーグの第1戦で、日本が優勝候補に挙げられていたコロンビアを下した時には、スイス国営放送のアナウンサーは「コロンビアが日本に負けるなら、その日本から2点を奪ったスイスはコロンビアに大差で勝てるのではないか」などと大口をたたくなど、「上から目線」を感じたものの、日本には常に好意的だった。

 ところが、ボーランド戦でその態度が一変する。立ち上がりは「彼らの動きが多少鈍く感じられるのは36度にもなる気温のせいです」とアナウンスしていたが、コロンビアがセネガルにリードしてからの日本チームの戦い方に対しては怒りを隠さないようになり、最後には「セネガルに点を入れさせたい」とまで発言した。試合後も「あのようなチームには勝ち進んでほしくない」とこき降ろしていた。

 このバッシングの背景について、スイス・バッサースドルフのチームに所属する飯野多希留氏の見解を尋ねてみた。「日本のサッカーは武道的要素を持ち、勝つことに意義を感じるのに対して、サッカー発祥地であるヨーロッパは楽しむことが最重要点のため、日本の決断を潔しとしなかった、という根本的な相違点がある」と分析する。

 それが隣国ドイツでは、また違ってくるのが興味深い。同国のゲレッツリードを本拠地とするチームでプレイしている日本人選手は、「ドイツでは否定的な捉え方はされていない。勝ち進むための賢い選択だったと受け取られている」という。この差は、「サッカー大国」と、「サッカー発展途上国」の差なのかもしれない。

 そんなスイスメディアのバッシングはベルギー戦が始まるまで続いたが、前半の日本チームの戦い方で一転した。「こういう試合を見たかった」と、ポーランド戦での鬱憤(うっぷん)を皮肉ったのを最後に、そのことには一切触れなくなったのだ。

 そればかりか、日本が示した高い士気と粘り強い戦い方を「ベルギーに対する思いがけない脅威」と褒めたたえると、「今回のW杯でここまでベルギーを困らせたチームは他にいない」と断言してみせた。そして、「日本のチームワークと、走り続けるパワーによって、後半はベルギーを脅かす存在になるであろう」と予測した。

 試合終盤に日本がファウルを取られた際も、スローモーション映像を確認し、「これはファウルではない」と味方についた。日本の、2人ずつを平行に動かす戦略を分析し、評価していた。しかし最後で逆転された後は、日本の戦い方を褒め散らすも「ベルギーは格が違う」という発言で片付いてしまったが、それでも、今後は日本も一目置かれる存在になるのだろう。

▼日本の課題

 これからの対策として、前出の在独日本人選手は「メディアが『感動した』と言っている内は、4年後もこれ以上の結果を出すことは出来ないだろう。敗因をフォーカスしていくのがメディアの仕事だ」と言い切る。実際にドイツのサッカー番組では、最初に負けた試合から次の試合まで延々と「何故負けたのか」と議論し続けて、スイス人の失笑をかっていた。

 飯田氏が口にした「日本に戻ると、練習中は同僚にかなわないと思わせられるが、試合ではそうでもない。スイスはその逆だ」という言葉も見逃せない。筆者が「もし、自分が監督だったらどう対処するか」と質問を投げてみると、「リスクマネジメントを徹底する」と返ってきた。同じ言葉を、スイスでの親善試合を多数見続けている40歳の男性からも聞いた。その男性によると「190センチ台の選手と戦うにはどうすればいいのか、また対応力不足をどう解消するのか」という課題が、スイスで見ていると切実に迫ってくるという。次のW杯までに日本に必要なのは、親善試合を数多くこなしてサッカー先進国の戦術を学び、メディアも率先して日本のサッカーの弱点を突き詰めていくことではないだろうか。(チューリヒ在住ジャーナリスト中東生 共同通信特約)

サッカー国際親善試合でスイスに敗れ、悔しがる長谷部(17)ら日本イレブン=8日、ルガノ(共同)