<隠れた名盤> 加藤ミリヤ『Femme Fatale』 心地よい歌声のラブソングなのに、なぜか怖い歌詞

加藤ミリヤ『Femme Fatale』

 “魔性の女”を意味するタイトルの、通算10作目となるオリジナル。さらりと聴くと、最先端のブリティッシュ・ポップスやEDM系統のサウンドと彼女の歌声が心地よいが、歌詞を読みこんで聴くと、まるで禁断の園に迷い込むようだ。

 不自由な中で愛を貪るタイトル曲、愛ゆえに相手を束縛したい『I HATE YOU』、「普通じゃない」「同じ名前じゃない」二人でも、「誰に私たちを引き裂く権利があるの?」と強い愛を貫く『貴方はまだ愛を知らない』と、徐々に愛憎がエスカレート。インド風ポップスに乗せて「新しい遺伝子を作らない?」「死ぬのは全然怖くない」と軽やかに歌う『あたしの細胞』をこの流れで聴くと、ラブソングなのになぜか怖い(汗)。

 クライマックスは12曲目の『BURN』。中島みゆき『地上の星』ばりに重低音の演奏が響く中で、炎のごとく熱く激しく生きようと祈りを交えながらのように熱唱するミディアム・バラード。誰に何と言われようと、我が道を進みたい時に聴けば、勇気をもらえそうだ。

 とにかく、彼女の中でも最大の熱量を感じさせる大作。本作を聴けば、ミステリアスな人や現象をより身近に感じるはず。

(ソニー・通常盤3056円+税)=臼井孝

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