【新工場長インタビュー】〈大同特殊鋼知多工場・鹿嶋忠幸執行役員〉安定供給と機能材料強化 特殊ステンレス鋼のCC比率引上げ

――繁忙感が極めて強い中で工場長に就任されました。

 「まず、足元の受注に応えることが課題。受注調整も行わざるを得ないほど高い受注・生産レベルの中で、1トンでも多く生産し、顧客ニーズに対応し安定供給すること。同時に、今期から始まった2020年中期経営計画の達成に向け、機能材料の強化をはじめ着実に設備を整えることが重要」

 「一方で、フル生産状況ではあるが、なにより優先されるのは安全。安全面での問題が発生すると、工場全体の士気低下にもつながる。安全な職場の実現と生産現場のオペレータによる自主保全活動(TPM)のスキルアップを図りたい」

――足元の生産状況は。

 「自動車、建産機向けの構造用鋼のほか、軸受鋼、半導体製造装置関連向けのステンレス鋼の生産も堅調。足元では粗鋼月産14万トンペース」

――2013年に稼働した新製鋼プロセス(150トン電気炉の新設と1CCラインによる製鋼プロセス改革)の現在の稼働状況などは。

 「順調に稼働しており、月間7万トン・年間80万トンの粗鋼生産を安定的に行っている。現状の非常に高い生産レベルを実現できるのも、1CCラインのプロセス改革によるところが大きい。また、今後、ステンレス鋼を20年度までに15%増(17年度比)、23年度までに23%増(同比)の能力増を実現する上でのベースにもなっている」

――新中期では、製鋼物流合理化による能力増強として、ステンレス鋼連続鋳造量の15%向上を掲げています。

 「耐熱性、耐食性など、機能性に優れた素材への需要が高まっていることに対応し、特殊ステンレス鋼などを生産する2CCラインの製鋼プロセスを合理化する。溶解~精錬にかけての物流をシンプルにして生産性向上を図る。またタンディッシュ予熱、加熱装置の更新などにより、従来インゴットで製造されていた特殊ステンレス鋼のCC比率を上げ、生産能力の拡大、品質、数量の安定的な量産プロセスに変えていく。投資金額は約40億円で、19年夏から立ち上げ、新体制に移行する計画」

 「CC比率を高めることによりインゴットラインに余裕ができ、再溶解炉(ESR=エレクトロスラグ再溶解)での工具鋼、特殊ステンレス生産の増強、全体の歩留まり改善、生産性向上にもつながる」

 「同時に、2CCライン前後工程の整備も行う。例えば、原料となるスクラップの受け入れ体制や電気炉に装入する原料の銘柄などをきめ細かく管理することなどを検討している。さらに、中間製品のキズ取りや線材圧延工程の能力向上などが検討課題になる。中間製品のキズ取り工程の能力向上により、星崎工場の生産性向上にもつながる」

――ESRの増設による高清浄度鋼の製造能力拡大も新中期でのテーマです。

 「航空機や発電用タービン向けなどで高級鋼ニーズが拡大しており、約40億円を投じて知多工場と渋川工場(群馬県渋川市)に設備導入する。これにより、これまで渋川で溶解していた工具鋼を知多工場で手掛けることで、渋川は高合金などの高級鋼に特化することができる」

――安定操業、生産性向上を図る上での現場での取り組み課題は。

 「やはり、故障率を下げ実働率を上げることが肝要。とはいえ、単に啓発するだけでは品質面のばらつきにもつながる可能性がある。生産現場のオペレータによる自主保全活動(TPM)のスキルアップを着実に行うことが大事」

――諸コストも上昇しているが、コスト低減への取り組みは。

 「電極、耐火物の価格上昇は激しく、とくに電極は高騰している。これに対しては、電気炉の操業改善などに取り組んでいる。150トン炉で実施している電気とガスのバランス最適化などを、他の3炉でも展開したい。また、耐火物は『できるだけ使い切る』ために終点判定を精度よくすることが考えらえる。こうした取り組みによっても到底コストアップ分の吸収は行えないが、できる範囲での改善活動を行っていく」

――星崎工場などとの情報連携などは。

 「今期から『生産管理部』が設置され、両工場間のやり取りがスムーズになっている。上工程が知多、下工程が星崎という関係にもなるので、より情報連携を緊密にして全社での生産効率向上、物流改善にもつなげたい」

プロフィール

 趣味はゴルフ。学生時代はテニスで鳴らした。好きな言葉は「人間万事塞翁が馬」。知多工場の経験が長く、約20年。製鋼、技術室、副工場長などを歩く。「製造のばらつきを減らすことが、工程能力を上げることにつながる」と見ており、そうした取り組みを働き方改革にもつなげたい考え。

略歴

 1987(昭62)年名古屋大工学部卒、大同特殊鋼入社、星崎工場の製鋼部門に配属後、知多工場で製鋼部門などを長く担当、2010年鋼材事業部知多工場副工場長、12年調達部長、15年技術企画部長、18年執行役員知多工場長。岐阜県出身、53歳。

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