【変わる特殊鋼の生産現場】〈大同特殊鋼星崎工場・石濱辰哉工場長に聞く〉高機能鋼の生産性向上課題 能力増強へ15億円投資

 大同特殊鋼の構造用鋼、ステンレス鋼などの生産が極めて高い状況にある。自動車、工作機械、半導体装置などの製造業が同時に活況を呈するという環境下、今年度下期に向けさらにオーダーは増えそう。こうした中、生産現場では品質・数量の安定供給、生産性向上、原価低減などにどのように取り組み、対応しているのか。高機能鋼の生産拠点である星崎工場の現状と課題を、石濱辰哉工場長に聞いた。

――足元の稼働状況は。

 「大変高いレベルにある。半導体製造装置の生産が増え始めた2016年下期辺りからこの状況は続いている。それまで月間2万トンペースだった出荷量は、17年度時点で7%アップ。今年度はさらに7%程度増えそう。増加分の大半は高品質のステンレス棒線」

――伸長の背景は。

 「自動車の省燃費化などで、排気系をはじめ全体的に耐食、耐熱性の高い高機能鋼のニーズが増えている。また、半導体製造装置の生産が極めて高い水準にある。半導体製造装置向けの超高清浄316Lステンレス鋼(商品名・クリーンスター)の需要には16年度下期から本格的に取り組み、出荷量はその当時に比べ2倍になった。今後、クリーンスターの出荷はさらに5割増しになるとみている」

――そうした中で、生産現場の傾向は。

 「プロダクトミックスが大きく変化している。クリーンな材料になるほど、磨き加工などの難易度は上がり生産性は落ちる。それを現場でどう工夫して生産性向上につなげ、スループットの向上につなげるかが課題」

――そのための設備投資などは。

 「これまでに、ピーリング製品のプロセス改革を実施。設備更新も行って加工の品質・生産性・機能を高めた。これにより生産性は20%以上アップした。また、線材の熱処理炉(STC炉)を新設。次世代省エネ燃焼システムの導入などで環境負荷低減も図った。これらの能力増強を実施した途端、さらに受注が拡大してフル稼働になった」

――さらに増強投資が必要に。

 「今年度からスタートした『2020中期経営計画』に盛り込まれているポートフォリオ改革の要のひとつが、星崎工場の事業基盤強化策。『機能性に優れた素材でお客様の技術革新を支える』という基本方針の下、線材熱処理炉(ST炉)の増設、冷間加工(伸線・ワイヤーブローチング)設備の増設などを実施する。投資額は約15億円で、来年夏をめどに立ち上げる」

――工事の進捗は。

 「現在、事前工事に入っており、既存設備のレイアウト変更などを順次実施している」

――増強投資の実現でどの程度生産実力は上がるか。

 「量的には月間500トンの熱処理能力増につながる。しかし、中期計画で想定する10~15%の能力増(17年度比)を前提にすると、さらに設備増強が必要。今後の需要動向にもよるが、大きな環境の変化は考えにくい。お客様の動向に遅れることなく次の投資を考えていきたい」

――生産性向上への現場の取り組みは。

 「星崎工場が手掛ける各種加工は、段取り業務も非常に重要。しかし、より仕事がやりやすいように工夫し、実働率(勤務時間の中で実際に加工している時間の比率)を上げることで、生産性を向上したい。『草の根改善活動』、『現場地力アップ活動』として、JK活動で常に取り組んでいる。きめ細かな改善活動により、生産性の1割向上を目指している」

――原価低減への現在の取り組みは。

 「安定稼働、歩留まりロス改善、品質安定などを着実に実施し、リードタイムを短く効率的に生産できるような体制整備が肝要。これも、草の根改善活動をはじめDMKの基本精神を具体化するために日々取り組んでいる」

――知多・星崎工場間の物流改善も現中期テーマだが。

 「営業と現場が一体になって効率よく取り組めるよう、今期から『生産管理部』が組織された。これにより工場間での情報の整理が進み、連携も強化された。今後はIT活用でさらに効率化することが工場生産管理部門や製造部門スタッフの働き方改革にもつがなる」

――高い生産レベルを実現するためには、マンパワーも必要では。

 「中途採用も含めた人材採用を行っており、人材育成にも力を入れている。現場の安全を最優先する上でも人材は貴重だし、働き方改革を進める上でも大切な要素と考えている」

――自動車のEV化をどう見るか。

 「今後の変化をよく見て行く必要があるが、内燃機関を使った自動車が急になくなるとは考えにくい。足元では引き続き省燃費、軽量化などのニーズが旺盛。星崎工場が得意とする高機能鋼のニーズは高い。量産化と生産の効率化を図り骨太な生産基盤を造り上げ、お客様のニーズにしっかりとお応えしていく」

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