奈留小教区評議会議長 葛島幸則さん(64) 信徒と地域の「調整役」 「祈りの場守る」 思い代弁

 古里は葛島(かずらしま)。五島・奈留島の北部に位置する小さな島で、小学校5年まで暮らした。
 先祖は江戸末期に長崎・外海から葛島に移住した潜伏キリシタン。幕末維新期のキリシタン弾圧「五島崩れ」では、葛島の人々も拷問を受けた。その「信仰の島」も過疎化が進み、1973年に島民が奈留島に集団移転して無人島になった。
 県外に就職後、20代前半で奈留島に帰り、家族と魚の仲買業を営んだ。約15年前、カトリック奈留小教区の信徒代表に就任。2007年、奈留島の江上天主堂を含む「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が世界遺産の暫定リストに入ると、奈留島の信徒は動揺した。
 1918年完成の江上天主堂は、カトリックに復帰した人々が漁をして資金を蓄え、苦労して建てた大切な祈りの場だ。「教会が荒らされる」「文化財になれば維持費が高くつく」。信徒は次々と不安を吐露した。奈留小教区評議会として、同天主堂を構成資産から外すように求める決議をした。
 転機は2009年。「反対意見も必要」と請われ、五島市が設立した世界遺産登録推進協議会の委員になった。「教会を観光地化してはいけない」と信徒の思いを懸命に代弁し続けた。やがて協議会も「祈りの場を守るのが第一」と理解を示すようになり、登録を熱望する地域と信徒の「調整役」になろうと決意した。
 反対する信徒を「世界遺産を通して、私たちが守ってきた教えや信仰を世間に知ってもらおう」と説得した。ここ数年、声高に反対を叫ぶ人は減った。ただ、マナーが悪い来訪者とのトラブルが起きたりすれば、「いつ不満が再燃するか分からない」と不安も残る。
 現在、奈留島の信徒は約300人で、中心は50~60代だ。人口が減り続ける中、「自分たちの後は誰が教会を守るのか」と心配する。「でも、ぎりぎりまでは自分たちの手で守りたい。だって、私たちの教会だから」

江上天主堂の前で、世界遺産登録までの道のりを振り返る葛島さん=五島市奈留町

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