「不妊退職」なくすため不妊治療の対応を経営戦略に

日本では5.5組に1組が不妊に悩むといういま、女性の不妊退職が社会課題となっている。政策分析ネットワーク、Will Labは都内で14日、「不妊治療と仕事の両立」をテーマに企業関係者向けのセミナーを開いた。日本航空は経営戦略としてダイバーシティ推進に取り組み、その一つである女性活躍を進める中で、不妊治療とこれからのキャリアアップを継続できるように、また社員の福利厚生の観点より新たに制度を作ったという。(辻 陽一郎)

昨年、「不妊白書」を発行したNPO法人Fineの松本亜樹子理事長は、「企業はダイバーシティ・インクルージョン(多様性と包摂)推進の施策の一つに不妊治療を入れてもらえたらありがたい」と語った。

不妊白書は不妊治療の当事者5526人のアンケート調査をもとにしている。

白書によると、仕事をしながら不妊治療を経験したり考えたりしたことのある人のうち「両立は困難」と回答した人は約96%。そのうち5人に1人は不妊退職をしたという。晩婚化や晩産化で不妊治療が身近な医療となる一方で、仕事との両立ができずに退職を選択する女性がいるのだ。

社内では不妊治療への理解がなく声を上げづらいことが大きな壁となる。「上司から一回で成功させろといわれるなど、社内での理解がなくプレマタニティハラスメント(プレマタハラ)も問題となっています」と松本理事長は指摘する。「不妊治療の当事者は声を出しづらいので、理由を言えず『一身上の都合』でとサプライズ退職をしてしまいます。働き盛りの女性が辞めてしまうのは社会的な損失です」

厚生労働省が行った企業へのアンケート調査「仕事と不妊治療の両立支援について」では、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度や取り組みを行っている企業は9%だった。

先進的な制度化の一つに、日本航空が2016年4月から導入した不妊治療休職制度がある。体外受精と顕微授精といった高度な不妊治療を対象に最長1年間取得できる。現在の利用者は30名ほどだという。

制度導入のきっかけについて、同社人財戦略部の田村知子さんは「退職した女性の一定数は不妊治療が理由でした。女性活躍推進に取り組むなか、女性がやりがいを持って長く働き続けてもらえるようになにかできないかと考え導入しました」と説明した。

企業は働き方改革や女性活躍など経営戦略の視点から、不妊治療への対応を進めていくことが必要だ。今後、女性が不妊治療と仕事の両立ができる社会に進んでいくには、休暇や休職の制度化とともに、それを利用しやすい社内風土も欠かせない。社員向けに不妊治療のセミナーを開くなど、声をあげやすい環境づくりも求められている。

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