『現代社会はどこに向かうか』見田宗介著 未来へのポジティブな展望

 80歳の碩学の、なおも若々しい論考に感嘆した。

 「若々しい」の意味は二つある。まずタイトルに掲げた大テーマに向けて、最新の調査データに基づく緻密な分析を展開している。まるで現役バリバリの社会学徒のように。

 そして文明の展開を大きく描き出した先に、未来へのポジティブな展望を示している。そこに老いの憂愁や繰り言は一切ない。

 著者によれば、現代社会は「第二の巨大な曲がり角」に立つ。仏教、キリスト教など人間の精神の枠組みがつくられた「第一の曲がり角」を経て、社会は加速度的な人口増加と経済成長を遂げる。減速に転じるのが地球環境と資源の限界に直面する1970年代だ。現在は成長の急カーブから高原状の安定期に向かう途上にある。

 第一の曲がり角で人間は世界が「無限」であることに驚き、世界全域に貨幣経済と都市化を広げる道を突き進んだ。今、人間は世界が「有限」という真実を見据えて、新しい時代を生きる思想とシステムの構築を迫られている。

 兆しは既に若者たちの意識や生活スタイルの変化に表れている。すなわち「経済に依存しない幸福」を求める価値観が社会に浸透しつつある。

 経済成長のない社会は元気がなくて退屈だろうか。いや、そこは自然と交感し、芸術と文化が咲き誇る世界、人間が無意識に「天国」として描いてきたような世界だと著者はいう。そこに至るには百年単位の歳月と幾多の現実的課題の克服が必要であるにせよ。

 なんとのびやかな思考と精神か。

(岩波新書 760円+税)=片岡義博

© 一般社団法人共同通信社